原核生物シアノバクテリアには概日リズムを持つ種の存在が知られている.これまではその仕組み解明を主に室内研究が行われてきた.一方,野外生態系での概日時計研究は遅れている.現在の中心は海洋域で,多くが概日リズムを持つことが明らかになっているが,淡水域では殆ど未解明である.概日時計の適応的意義も不明である.そこで本研究は「淡水生態系におけるシアノバクテリア生物時計の適応的意義を野外および培養実験により検証する」ことを目的とした.主に琵琶湖で単離培養を試みたが,該当藻類の継代培養が行えなかった.本課題は終了するが,今後も培養条件検討を試みたい. シアノバクテリア概日時計の適応的意義に関する理論について,その鉛直移動を表す数理モデルを解析し,これまでに日周鉛直移動や隔日鉛直移動,不規則周期鉛直移動(カオス様振動)といった鉛直移動パターンが得られた.2022年度は概日時計による制御がない場合にカオス様振動が生じる条件について,更に詳細な解析を行った.従来の数理モデルを簡素化した強制振動モデルを用いて得られた振動パターンについて,振幅,周期比,周期数のそれぞれを得た.その結果,コロニーサイズに応じて,鉛直振動が強制振動に引き込まれて同期する強制振動周期と,引き込み不全となりカオス振動が生じる強制振動周期が存在することが明らかになった.特に典型的なコロニーサイズである半径100μmの場合,強制振動が短周期(1~12時間程度の晴れ・曇り周期)では完全な引き込みが見られた一方で,昼夜周期(24時間)の強制振動を与えた場合は常に引き込み不全が生じてカオス様振動が見られた.この結果は,概日時計などによる制御がない場合に光合成生産が不安定となることを示唆する.引き続き,引き込み不全によるカオス様振動が生じる仕組みについて詳細な解析と,概日時計制御による適応度(光合成生産)向上について定量化を行う.
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