研究課題/領域番号 |
18K05798
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
永田 恵里奈 近畿大学, 農学部, 講師 (20399116)
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研究分担者 |
中瀬 玄徳 近畿大学, 水産研究所, 講師 (40454623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 養殖漁場 / 底質 / 有機汚濁 / 指標 / 乳酸菌 |
研究実績の概要 |
養殖漁場の有機汚濁(漁場環境の悪化)の程度を評価するために現在用いられている硫化物量や底生生物(ベントス)の減少などの指標は、すでに養殖漁場の環境が悪化してしまった『結果』を調べているにすぎない。実際に、和歌山県の養殖漁場では、海底のベントス数が大幅に減少し、指標とならない海域もある。漁場の悪化を早期発見し、回復のための措置(治療)を行えば、人間が手を貸さなくても環境がもともと持つ自然の浄化能力が働くことが期待でき、漁場回復の労力は従来よりも軽減されるであろう。そこで本研究では、給餌養殖による漁場悪化の予兆となる指標を開発することを目的とした。
漁場悪化を早期発見するための新しい評価指標として、乳酸菌に注目した。底質での硫化水素の生成は、底質の有機酸(主に乳酸)濃度に依存していることが知られている。従って、底質で乳酸の蓄積に貢献していると考えられる乳酸菌数が悪化の始まりを早期に示すのではないかと考えた。
本年度は、養殖漁場の底質の硫化物量(酸揮発性硫化物量:AVS)と乳酸菌数の経時変化とその相関を、加えて底質と乳酸菌種との関係を調べた。和歌山県田辺湾の養殖生簀設置海域における底質悪化の程度が異なるSt. RS(要注意漁場)とSt. UM(汚濁の進んだ漁場)をフィールドに選択した。St. RSのほうがSt. UMよりも年間を通じて乳酸菌数が約1桁多く検出された。St. RSではAVSと乳酸菌数に正の相関が見られたが、St. UMでは相関は見られなかった。要注意漁場であるSt. RSでは乳酸菌数と底質悪化の進行に関係が見られたため、乳酸菌は有機汚濁の兆候を早期に把握するための手法として適していると考えられた。汚濁の進んだ漁場であるSt. UMでは乳酸菌もいなくなることがわかった。分離・同定した乳酸菌種の中から指標菌候補として6種類の乳酸菌を選ぶことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は次の3つを実施する計画を立案しており、それぞれの進捗状況は下記の通りである。 ①乳酸菌分離株の細菌種同定(平成30年度):予備調査で分離した未同定乳酸菌、ならびに本年度に分離した乳酸菌の同定を進め、漁場悪化の予兆を捉える指標細菌種(乳酸菌)の候補リストを充実させる。→現在、乳酸菌分離株として保存できたものは1326株あり、そのうち43%の572株の同定が終了した。同定に用いていた機器の不調によりやや遅れているが、機器の修復が終わったので、これから順次再解析を行っていく。 ②指標細菌種(乳酸菌)の簡単な検出方法の開発(平成30年度):予備調査で目星をつけた健全漁場の指標細菌候補乳酸菌3種と汚濁の進んだ漁場の指標細菌候補乳酸菌2種を標的とした定量検出方法の開発に着手する。 →予備調査と本年度の調査で分離同定した乳酸菌種のデータをみてから指標細菌候補を最終決定しようとしたが、乳酸菌種の同定が計画通り進まなかったため、開発の着手が遅れている。 ③モデル養殖場(和歌山県田辺湾)における乳酸菌数・叢解析と硫化物量との関係(平成30・31年度):モデル養殖場において 、乳酸菌数を培養法で、ならびに種組成の変化をAutomated Ribosomal Intergenic Spacer Analysis (ARISA)あるいはアンプリコンシーケンス解析によって明らかにし、乳酸菌数・種組成の変化と対応する硫化物量との関係を明らかにする。酸化還元電位 (ORP)、有機炭素量(CHNアナライザー)、有機酸量(高速液体クロマトグラフィ)、硫化物量(検知管法)も測定する。→本年度は、DNA解析以外のすべての解析を終わらせた。次年度は、冷凍保存している海底の泥試料からDNAを抽出し、ARISA解析を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
当初、健全漁場の指標菌候補として乳酸菌を3種類と汚濁の進んだ漁場の指標菌候補として乳酸菌を2種類選択しようと計画していた。本年度の研究結果から、汚濁の進んだ漁場には乳酸菌の存在量が少なく、かつ種類も少ないことがわかった。したがって、汚濁の進んだ漁場の指標菌候補の選択は生菌ではなく、DNAレベルでの解析結果をみてから(次年度実施予定)、慎重に選択する。健全漁場の指標菌候補としては5種類の乳酸菌を選ぶことができたため、DNAレベルでの解析結果(2019年度に実施する)と照らし合わせながら、特異的検出手法の開発に着手して行く。漁場悪化が進みすぎた海域では、乳酸菌が漁場回復の状態を示す指標として使用できるか、今後検討していきたい。
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