魚類養殖漁場の有機汚濁の程度は、硫化物の発生・蓄積や底生生物の減少といった汚濁の結果で表現されている。悪化を予防するためには、悪化が起きる予兆を知る指標の方が役にたつ。本研究では、硫酸還元菌による硫化水素の生成が有機酸濃度によって制御されている点に注目し、発酵微生物の動態の早期観測により、底質悪化を予測できるか検証した。和歌山県田辺湾の養殖生簀設置水域において、底質悪化の程度が異なるSt. OJ(要注意漁場)とSt. UM(危機的漁場)を調査した。エクマンバージ採泥器で採取した底泥(表層1 cm)について、AVS-S、乳酸菌数、有機酸そして細菌叢(16S rRNA)を調べた。St. OJでは養殖休止期間(12日間)を除いて、常にマダイを飼育していた。St. UMでは春季のみマダイを飼育していた。St. OJでは年間を通じて乳酸菌が分離されたが、St. UMでは乳酸菌が分離されないか、St. OJよりも乳酸菌数が約1桁少なかった。St. OJでは、養殖再開後に、乳酸菌生菌数、有機酸量とAVS-Sが増加した。養殖再開後2ヶ月の間は、Firmicutes門Bacilli綱、Spirochaetota門Spirochaetia綱、Fusobacteriota門Fusobacteriia綱、Bacteroidota門Bacteroidia綱などの発酵微生物群の割合が増加した。St. UMはAVS-Sや含水率と、St. OJでは乳酸菌数、コハク酸、総有機酸濃度、Bacilli綱と相関が高いことが示された。本研究結果から、養殖漁場の底質悪化の予兆として、検出が簡便な乳酸菌数を評価することが有効と考えられる。
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