前年度までの成果により、藻場を構成する海藻種には好適な流動環境があることがわかり、またこれらの流動の違いを簡易的なロガーで客観的に評価できることがわかった。本年度は、海藻種により好適な環境があるということは、逆に好適でない環境になると藻場構成海藻には生理的にどのような変化が生じるのかを解明するため、以下のような実験を行った。 山口県屋代島南岸に生育するカジメ類のクロメを、前年度に解明したホンダワラ属藻類に好適な流動環境、アマモ類に好適な流動環境の海域に移設し、コントロールとしてクロメ生育地についてもクロメを一度基質から剥がし同じ場所に設置した。これらのクロメについて、毎月1回、ピンホール法による成長量と、潜水式のパルス変調クロロフィル蛍光測定器による光合成量を計測した。 計測の結果、屋代島北側のホンダワラ藻場、アマモ場に移設したクロメは光合成活性が低下していき、何らかのストレスを感じていることが示唆された。屋代島南岸のクロメ場のクロメは良好な光合成活性を維持していた。各所における1年間の水温変動に大きな違いはなく、これら光合成活性の低下は、流動環境の低下により本来必要な海水交換が妨げられていることによるものと考えられた。本年度の結果により、藻場を構成する海藻にはそれぞれ好適な流動環境があり、その流動環境は、再生産や藻体の維持に必要な栄養塩等の必要量が種によってことなり、そのための海水交換量が種によって異なるからであった。そして好適な流動環境でない場合は海藻類の光合成活性が下がり、最終的には枯死することがわかった。
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