研究実績の概要 |
付着珪藻などの海洋付着生物は海中の人工物表面に対し生物皮膜を形成することにより深刻な海洋汚染を引き起こしている。これまで殺生作用のある防汚塗料などにより、これらの生物皮膜形成は抑制されてきたが、他の海洋生物に対する毒性が問題となっている。本研究課題では付着基質表面の性状が生物皮膜形成に与える影響を明らかにし、得られた知見から低環境負荷型防汚材料の創成を目指す。 今年度は、材料表面での生物皮膜形成を調べる為、モデル付着珪藻として5種類の付着珪藻の研究室内での安定的培養を試みた。培養環境の照度や水温を調整した結果、Navicula sp., Navicula ramosissima, Amphoraの3種は安定的な拡大培養をする事に成功した。一方、 Licmophora sp., Cocconeis sublittoralisの2種に関しては、安定的な拡大培養が全くできない、もしくは増殖速度が著しく遅いという結果となった。その為、今年度はNavicula sp., Navicula ramosissima, Amphoraを用いて付着実験を行った。 表面官能基が付着珪藻の生物皮膜形成に与える影響を調べる為、自己組織化単分子膜(SAM)を利用し付着基質表面を各種官能基にて修飾し付着実験を行った。 Amphoraに比べNavicula 2種は比較的強い接着性を示した。増殖速度に関して、基板間での顕著な違いは見られなかったが、付着群体の形式には差が見られ、OH基修飾表面ではNavicula 2種において液中に浮遊する群体が見られた。また、Navicula ramosissimaにおいては直線性の高い群体が観察され、OH基修飾表面では群体が部分的に剥離し液中に群体が直立しているような形態が観察された。この事から表面修飾官能基が付着珪藻の剥離挙動に影響している可能性が示唆された。
|