付着生物は有用な水産資源である一方で,人間活動において望まれない場所に付着する汚損生物としての側面も持っている。付着珪藻の形成する生物皮膜を抑制する為に使用される防汚塗料はその毒性が懸念されており,低環境負荷型の防汚技術が望まれている。本研究ではこれまで,付着基質の物理化学的性質と付着珪藻の生物皮膜形成との関係に着目し,付着珪藻の生物皮膜形成メカニズムの理解に基づく防汚技術開発に取り組んできた。 まず初めに,室内環境における安定的な付着珪藻培養系の確立及び,付着実験に用いる付着珪藻種の選定を試みた。その結果,Navicula種は付着力・増殖速度・運動能が他の種類と比較し高い事が分かった為,Navicula種をモデル付着生物として採用し付着実験を行った。 自己組織化単分子膜により,付着基質表面に各種表面官能基を修飾し,それらの表面にて付着珪藻の付着及び増殖について調べた。その結果,OH 基修飾表面では他の官能基修飾表面と比較し群体が形成されにくく,また群体の一部が剥離する様子も観察された。 次に,熱プレスによりサイズの異なるマイクロディンプル構造を有する基板を作製し,付着基質の表面微細形状が付着珪藻の付着及び増殖に対して与える影響について調べた。その結果,マイクロディンプルのサイズによって珪藻の表面被覆の形態は異なり,付着珪藻の増殖に影響を与える事が示唆された。 最終年度では,蛍光試薬として二酢酸フルオレセイン(FDA)を使用した付着珪藻の群体形状の蛍光顕微鏡観察を行った。表面形状によって,付着珪藻が作るクラスターのサイズに変化が生じ,結果的に増殖速度に違いが出ている事が実験結果から示唆された。
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