研究課題
化学物質や感染などのストレッサーに由来する環境ストレスは魚類の生産性や健康などに影響を及ぼす。Edwardsiella tardaによる細菌感染症は国内の養殖、特にヒラメ養殖に大きな被害を与える著名な魚病の一つである。しかしながら、細菌感染が魚類のストレスタンパク質や抗酸化酵素の発現に及ぼす影響は不明な点が多い。本年度は代表的ストレスタンパク質であるヒートショックプロテイン(HSP)70と活性酸素消去酵素系の第一ステップに働く重要な酵素スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)に着目し、ヒラメParalichthys olivaceusにおけるそれらの発現に及ぼすE. tarda感染の影響について検討した。(1)試験魚: E. tardaをPBSに懸濁し、これをヒラメに接種した。その後、48時間まで経時的にサンプリングした。(2)HSP70とSODの発現量の測定:発現量は市販抗体を用いウエスタンブロッティング法により測定した。(1)細菌感染の所見:肝膵臓においてE. tarda感染に典型的な症状が認められ、その生菌数は感染後徐々に増加した。(2)HSP70およびSODの発現レベル:HSP70の発現レベルは感染後初期では変化がなかったが、24時間後に増大し、48時間後には対照区に比べ有意に増加した。また、Cu, Zn-SODの発現動態もHSP70に似ていた。一方、Mn-SODの発現は感染後徐々に増加し、48時間後に最大となった。以上のことからE. tarda感染はヒラメ体内で活性酸素の産生を亢進し、酸化ストレスを誘導するものと推察される。従って、HSPとSODは細菌感染したヒラメの抗酸化能を改善し、さらに免疫応答にも関与していると思われる。今後は他の環境ストレスの負荷や魚種を変えるなどして同様の評価を行い本結果と比較し、ストレスの緩和法などについて考察していきたい。
2: おおむね順調に進展している
環境ストレスとして病原菌Edwardsiella tardaの感染による生理学的ストレスに対する反応をヒラメを用いて解析した。HSPやSODといった各種生理学的バイオマーカーを組み合わせることでストレスの質が評価できた。本成果は次年度以降のさらなる研究展開に応用できると思われる。
計画に大きな変更は要さない。今年度得られた結果を基に各種ストレスに対してさらに解析を進め、環境ストレスの負荷による生体の反応について検討する。
当初使用する予定で計上していた遺伝子解析用キットおよびタンパク質発現解析用の各種抗体が、現有のキットおよび抗体類で今年度はまかなうことが出来た。さらに成果発表を予定していた学会が、新型コロナウイルスによる肺炎の大流行のため中止となり繰越しが生じた。次年度は繰越し予算も含め試薬等の消耗品費および成果発表のための旅費に充てる予定である。
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Evolution of Marine Coastal Ecosystems under the Pressure of Global Changes
巻: - ページ: -
The Sea Under Human and Natural Impacts
巻: - ページ: 223-234
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Biosensors
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