2018年度~2019年度における研究成果、即ち、日本沿岸海域に生息分布するアニサキス寄生虫の詳細、アニサキス寄生虫の不規則運動能力の評価方法の確立等をもとに、2020年度は、アニサキス寄生虫の胃腸壁での不規則運動能力(感染力)を寒天侵入測定法により検討した。即ち、蒸留水を用いて加温溶解させた寒天を入れた試験管につき、固化後その表面に1㎜程度の穴を開け、さらに3cmの高さに生理食塩水を重層した。この試験管にアニサキス(10隻)を入れ、寒天層への穿入能力を観察した。この際、比較対照として先行研究でアニサキス不規則運動能力低下が認められるメントールを溶解させた生理食塩水を使用した。メントールを添加した試験管ではアニサキスは寒天に侵入せず、寒天上での運動も認められなかったが、被験物質無添加の試験管では活発に寒天層に侵入していた。これによりアニサキスの胃腸壁での不規則運動能力(感染力)の有無を寒天層への侵入として目視にて明確に観察でき、本試験が海藻に含まれるアニサキス寄生虫の特徴的な不規則運動を抑制する活性成分のスクリーニングに適した方法であることが明らかとなった。本年度は、沖縄県産海藻(紅藻類)抽出・精製物の他、メントールと同様のモノテルペンであり、柑橘類の皮に多く含まれるリモネンについて検討も行った。なお、本試験に追加で使用を予定していたスケトウダラ、マダラ由来のシュードテラノーバ属、コントラシーカム属寄生虫に関しては、不漁により入手困難となったため、サバに分布するAnisakis prgreffiを被検体とした。結果として、アニサキス寄生虫の胃腸壁での不規則運動能力(感染力)を低下させる物質として沖縄県産紅藻類(マクリ)に含まれるカイニン酸、精油成分(リモネン等)が考えられた。一方、これら成分のマウスへの急性毒性は、認められなかった。
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