現在世界の魚類養殖では、魚粉原料魚の資源量枯渇への懸念とヒト用食料資源との競合といった倫理的問題から、飼料に占める魚粉量を減らして植物原料を代わりに使った、低魚粉高植物飼料が求められている。しかしこのような餌では魚の成育が劣ることが問題となっている。 本研究ではその原因として、低魚粉飼料には養魚の摂餌を刺激する味や匂いが乏しく、そのため餌が消化管に到達する前に味や匂い刺激によって開始する消化活動(脳相消化)が十分でないことにあると考え、魚類において知見が不足している脳相消化の調節機構を明らかにすることを目的に行なっている。 嗜好性の高い魚粉から水抽出した魚粉抽出液に対してブリは活発に水槽内を泳ぎ酸素消費量が増大した。このことから餌本体の介在無しでブリは嗜好性の高い匂いに対して摂餌行動を起こすことがわかった。そこで匂いに惹起される摂餌行動中における神経伝達の関与を明らかにするために心拍ロガーを用いて心拍数を測定することとした。昨年度は心拍ロガーの設定に手間取ったが、本年度は再現性の高い安定した結果を得られることができた。すなわち、安静時には既報に近似した値が安定して得られ、運動負荷時には有意な増加が確認できた。心拍ロガーを装着した試験魚に嗜好性の高い魚粉抽出液と嗜好性が低い植物原料抽出液を水槽水面に散布したところどちらの抽出液でも遊泳行動は活発になったが、魚粉抽出液の方が顕著だった。しかしながら心拍数には両抽出液間で差がなく、遊泳行動の変化は心拍数には反映されなかった。飼料原料由来の匂いがブリの消化管に神経を介して作用するかどうかは明らかにならなかった。
|