研究課題/領域番号 |
18K05823
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小田 達也 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (60145307)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 赤潮 / シャットネラ / カレニア / ヘテロカプサ / 渦鞭毛藻類 / 溶血毒素 / ポルフィリン誘導体 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
ラフィド藻類であるシャットネラは強い魚毒性を示す。これまでの解析から、シャットネラは高レベルの活性酸素を常に産生する特性を有することを見出している。また、シャットネラの細胞表層は粘性多糖体である糖被膜(グリコキャリックス)で覆われており、この部分に活性酸素産生酵素系が局在する事、糖被膜はシャットネラが魚鰓を通過する際、細胞本体から離脱し、鰓表面に付着する事から、鰓表面での持続的活性酸素産生が鰓機能に障害を与え、魚を窒息死させるとの推論に至っている。その他の強い毒性を有する赤潮プランクトンとの比較研究により、シャットネラ、ヘテロカプサ及びカレニアの毒性因子として、シャットネラは細胞表面で産生される活性酸素、ヘテロカプサ及びカレニアは細胞表面の溶血毒素の存在を見出した。さらに、これら微細藻類はいずれも物理的細胞破壊により細胞外に光依存性溶血因子を遊離する事を突き止めた。ヘテロカプサの先行研究により、本溶血因子はアルコール抽出しうるポルフィリン誘導体である事を明らかにした。さらなる研究により、本物質は有用動物プランクトンであるワムシに無毒な濃度で、ヘテロカプサ自身の溶血活性を阻害し、ヘテロカプサ自身や種々の赤潮プランクトンに対して致死作用を示すことを見出した。従って物理的破壊により遊離したポルフィリン誘導体は赤潮防除因子として作用する可能性を示唆し、これらの成果は新たな赤潮防除法の手掛かりを提供すると考えられる。ヘテロカプサのポルフィリン誘導体の多彩な生物活性について、本年度は特に赤潮生物に対する殺藻効果を中心に、抗菌作用を含め解析した結果、ヘテロカプサのポルフィリン誘導体はグラム陽性菌特異的抗菌作用を発現することを見出した。この知見は赤潮生物が新奇抗菌物質の原料となる可能性を示唆するものであり、今後さらに検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤潮プランクトンの生物毒性試験には魚類や貝類、場合によっては比較的大型の魚類が用いられてきたが、これらの海洋生物の飼育維持には新鮮な海水や飼育水槽など特殊な施設が必要であることも赤潮毒性試験を困難にしている要因となっている。これらの問題点の打破と毒性因子の分子レベルでの解明を目指す試みとして、当初の研究計画に従い、通常の実験室で対応できる高感度でしかも簡便なマイクロバイオアッセイ法の確立とその有効性を検証してきた。結果、発光蛍光プローブを用いマイクロプレートでの活性酸素産生測定、赤潮プランクトン培養系に直接赤血球を添加する溶血活性測定法、培養細胞への赤潮プランクトンの直接添加による細胞毒性測定、動物プランクトンであるワムシに対する致死作用測定(ワムシ曝露実験)等のマイクロバイオアッセイ法の開発とその有用性検証を実施し、それぞれのアッセイにより赤潮プランクトンの毒性因子に関する多くの有益な知見を得ることができた。 一方、シャットネラ、ヘテロカプサ及びカレニアからの毒性因子分離の試みの過程で、いずれのプランクトンにおいても細胞破壊により水溶性の光依存性溶血因子が遊離すること、本溶血因子はアルコール抽出でより効率よく分離できることを見出した。ヘテロカプサの先行研究において、本溶血因子はポルフィリン誘導体であることを突き止めた。細胞破壊により遊離した本溶血因子は自身や他の赤潮プランクトンの細胞表面に選択的に作用し、それぞれの細胞表面の毒性因子に障害を与える可能性が推定される。なお、本溶血因子の生物学的存在意義は不明であるが、赤潮毒性因子としての関与の可能性は低いと考えられる。一方、本研究の目的の一つであるヘテロカプサの光依存性溶血因子の生物活性の多面的解析の成果として本溶血因子はグラム陽性菌特異的抗菌作用を示す知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
赤潮プランクトンの生物毒性はプランクトン細胞の物理的破壊により消失することはこれまでの多くの研究で指定されている。従って、物理的細胞破壊は薬品等の散布に比較し、海域への負荷が少ない赤潮防除法といえる。また、赤潮生物の破壊は毒性の消失のみならず、細胞外に遊離した因子によって自身の細胞や多種赤潮生物の死滅に繋がる可能性があることから複合的効果が期待できる。さらに、赤潮生物のポルフィリン誘導体の生物活性と生化学的諸性質を解析し、本物質の学術的及び実用的側面の新知見獲得を目指す。これまでの研究で確立したヘテロカプサ大量培養技術で原料を確保した後、回収した細胞からのメタノール抽出、Sephadex HL20、TLC、HPLCによりポルフィリン誘導体の精製を実施する。原料確保から活性物質精製に至る本法はシャットネラとカレニアにも応用する。クロマトグラフィーで分画された各画分の活性はウサギ赤血球に対する光依存的溶血活性で確認する。ヘテロカプサの先行研究では構造がわずかに異なるアイソフォームの存在を確認しているが、活性が最も強い物質を先行させる。精製物の生物活性は以下の3つの項目で実施する。①グラム陰性菌及びグラム陽性菌を用い、コロニー形成阻害活性を測定する。②ポルフィリン誘導体に対して細菌は耐性機構を獲得しにくいと考えられることから、院内感染で問題となるメチシリン耐性菌に対するポルフィリン誘導体の抗菌作用を調べる。③ポルフィリン自家蛍光を利用し、暗所でポルフィリン誘導体処理した細菌細胞の蛍光顕微鏡観察により、局在性と作用機構解明の手掛かりを得る。ポルフィリン誘導体作用に対する活性酸素(ROS)関与に関しては、微細藻類、細菌、癌細胞を用い、種々のROS検出とROS消去剤の影響など多面的に解析する。
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