研究課題/領域番号 |
18K05824
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
菅 向志郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (60569185)
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研究分担者 |
平坂 勝也 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 准教授 (70432747)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 仔稚魚 / 魚病細菌 |
研究実績の概要 |
魚類での生体防御機構のこれまでの研究では、仔魚期に自然免疫が機能し始め、稚魚期に移行後、特定病原因子に応答する獲得免疫が誘導されることが報告されている。 従来、仔魚から稚魚に至る幼若期は、紫外線殺菌海水などによって環境水に存在する細菌を極力少なくして飼育している。この時期の生体防御システムの発達に注目し、従来とは逆に仔稚魚を細菌に曝露することで抗病性を有した稚魚の飼育を本研究の目的とした。2020年度は、受精卵の入手ができず海産魚種での実験が計画通りに出来なかった。2019年度から、受精卵が通年に亘り入手可能なキリフィッシュを用いた実験系の構築および、強毒株のホルマリン死菌を用いた摂餌実験の基礎研究を実施してきた。今年度は、キリフィッシュの腸管に魚病細菌を取り込ませるために、アルテミアに魚病細菌を取り込ませる為の条件検討を行った。アルテミア培養液200 mLにホルマリン処理した魚病細菌および生菌を10^8 cells/mLとなるようにそれぞれ別々に添加し、1時間エアレーションして取り込ませた。アルテミアに含まれる魚病細菌は定量PCRで計数した。その結果、1個体当たり1.5×10^5 cellsが取り込まれていた。この条件で各魚病細菌を取り込ませたアルテミアをキリフィッシュに給餌し1~2ヶ月間飼育した(生菌区、FKC区)。同様に無処理アルテミアを給餌したキリフィッシュも同期間飼育した(対照区)。生菌区、FKC区、対照区のキリフィッシュに魚病細菌を10^5 cells/100 mg BW注射した。この処理は、4回に分けて、12個体ずつ行い、各区3個体ずつに注射し、各区の1個体はPBSを注射した。この結果、対照区は69、74、120時間で計3個体死亡し、生残率は50%、FKC区は48、69時間で計3個体死亡し、生残率は50%となった。生菌区は全個体死亡しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒラメを用いた実験では、ヒラメ受精卵を年2回に入手可能であり、本研究はこの時期に合わせて2回行う予定であった。 しかし、2020年度は、コロナ禍による移動制限などにより、受精卵が入手できずヒラメでの飼育実験はできなかった。このため、新たな魚種であるキリフィッシュを用いた実験を行うため、期間を延長した。ヒラメでの飼育実験で用いるワムシでは、キリフィッシュ仔魚の口径から不適であり、アルテミアに切り替えて実験する必要があった。よって、魚病細菌をアルテミアに取り込ませる最適な終濃度、時間を検討し、またアルテミアに含有される魚病細菌を定量PCRで計測するための手法を確立した。これらの手法を用いてキリフィッシュに魚病細菌含有アルテミアを給餌し、実験に用いた。当初の予定であったヒラメを用いた実験からキリフィッシュに変更したため、基礎的な条件を検討する必要があり、時間を要した。しかし、このキリフィッシュを用いる実験系であれば、今後の実験でヒラメに適用するための条件検討を数多く実施することが可能となり、これまでの計画の遅れを取り戻せると考えられる。また、キリフィッシュでの実験では、本魚種が雌雄同体魚であるため遺伝的にホモクローン個体であり、他魚種での遺伝的差異によるデータのバラツキを軽減できることが期待出来る。予定していた実験が実施出来なかったこと、多魚種での実験系の基礎的な構築を行ったことから、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
キリフィッシュへの魚病細菌含有アルテミアの摂餌実験を継続し、抗病性の付与について検討する。当初の実験計画であるヒラメ受精卵が入手できれば、ヒラメについても同様に実施する。 2020年度に実施した結果から、生菌を含有させたアルテミを給餌した生菌区の攻撃試験は、全個体が生存しており、FKC区では50%が生存する結果となった。この結果から、ホルマリン処理した魚病細菌の給餌では抗病性付与の効果が低減することが示唆される結果となった。よって、今後の実験では、ホルマリン処理による魚病細菌を実験に使用せず生菌で行う予定である。また、キリフィッシュでの攻撃試験では、筋肉注射をおこなったが、この接種では通常の魚病細菌の感染経路と異なる。よって、より自然感染に近い浸漬攻撃での処理方法について検討する。ヒラメでの実験において、魚病細菌含有ワムシの給餌により腸管の絨毛組織や粘膜下組織の発達が確認された。キリフィッシュはヒラメよりも小型であるが、魚病細菌含有アルテミを給餌することで腸管組織が変化するか組織切片解析を行う。この生菌含有アルテミの給餌による攻撃試験での生残率向上と腸管の組織切片解析による変化を対照区と比較することで、抗病性の付与と腸管組織の変化との関係性を明らかにする。ヒラメ受精卵が入手できれば、当初計画の実験を同時に進行させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ヒラメを用いた飼育実験を2回実施する予定であったが、コロナ禍による移動制限等によりヒラメの受精卵が入手出来なかった。このため、当初に予定していた飼育実験に使用する試薬類の購入額が減少し使用予定金額より残額が生じた。次年度は、これまでに遅れている研究計画に従い実験を進めるだけでなく、通年仔魚を入手できるキリフィシュを実験魚種として用いることで、ヒラメ実験に本結果をフィードバックすることでより充実した研究内容にする。
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