魚類での生体防御機構のこれまでの研究では、仔魚期に自然免疫が機能し始め、稚魚期に移行後、特定病原因子に応答する獲得免疫が誘導されることが報告されている。 従来、仔魚から稚魚に至る幼若期は、紫外線殺菌海水などによって環境水に存在する細菌を極力少なくして飼育している。この時期の生体防御システムの発達に注目し、従来とは逆に仔稚魚を細菌に曝露することで抗病性を有した稚魚の飼育を本研究の目的とした。2021年度は、昨年度と同様に受精卵の入手ができず海産魚種での仔魚を用いた実験が計画通りに出来なかった。2019年度から、受精卵が通年に亘り入手可能なキリフィッシュを用いた実験系の構築および、強毒株のホルマリン死菌を用いた摂餌実験の基礎研究を実施してきた。今年度は、連鎖球菌を対象として実験を行った。まず、キリフィッシュに対する病原性の有無について、浸漬感染実験を行った。溶血型および血清型の異なる連鎖球菌6菌株をそれぞれ終濃度が約10^7 cells/mLになるように飼育海水に添加した。各菌株に対してキリフィッシュを3尾ずつ使用して、30分間浸漬した。その後、各菌液からキリフィッシュを取出し、無菌飼育海水で3回洗浄し、飼育容器に戻して27.5℃で経過を観察した。その結果、すべての菌株で死亡しなかった。次に、各菌株を10~10^4 cells/50 mg 魚体重になるように31G注射針をセットしたマイクロシリンジを用いて左背上部筋肉に接種することで、注射攻撃実験を行った。対照区には、滅菌PBSを接種した。その結果、LD50は異なるが、血清型がII型の菌株以外で死亡が確認できた。これらの結果より、浸漬攻撃では病原性は確認出来なかったが、筋肉内注射による攻撃を行うことでII型菌株以外のレンサ球菌症のモデル魚としてキリフィッシュが使用出来ることが明らかとなった。
|