研究課題/領域番号 |
18K05831
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 琢也 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20307820)
|
研究分担者 |
鈴木 美和 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (70409069)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | イルカ / 細胞株 / 不死化 / 腎臓 |
研究実績の概要 |
本研究は、イルカ培養細胞の増殖維持に最適化した培地の作製を目指す。また細胞不死化に関わる分子機構は完全には解明されていないが、多数の不死化細胞株が樹立されている陸生哺乳類では、細胞増殖や細胞老化に関わる遺伝子の人為的な制御による細胞不死化の促進が報告されているため、それらの相同遺伝子はイルカの細胞においても不死化制御の候補遺伝子となりうる。それら候補遺伝子を含む細胞不死化関連遺伝子をイルカで探索するためにイルカの初代培養細胞およびその継代細胞(老化細胞)を用いた発現遺伝子群の比較解析を行い、不死化関連遺伝子を同定し、ゲノム編集技術を応用してそれらの遺伝子の人為的制御を行うことによって無限増殖能を有したイルカ不死化細胞の樹立を目指す。 本年度は、当初計画通り実施されたサンプリングによってイルカを由来とする組織が入手でき、そのうち肺、腸管および腎臓の新鮮組織片から2週間程度の維持培養によって初代培養細胞を得ることができた。一般的な哺乳動物細胞の組織培養に用いる培地にウシ胎子血清を添加した培養液を用いてin vitroでの培養を継続したところ、肺由来および腸管由来細胞は、複数細胞種が混在した状態での細胞増殖が確認できた後、1ヶ月程度で増殖の停止が見られた。一方、腎臓由来細胞の培養では、複数の細胞種由来と思われる様々な形態を示す細胞が活発な増殖を示したので、継代および増殖細胞の凍結保存を試みた。その結果、数継代の連続継代が可能であることが確認された。その後、継代を行い観察を続けたところ、培養細胞は増殖スピードが低下して、継代不可能となった。 凍結保存された腎臓由来細胞は、一般的な凍結保存細胞に適用される融解処理を施した後に培養を続けたところ、再び活発な細胞増殖が観察されたので、以後の実験に用いることが可能であることを確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、不死化細胞樹立の起点となるイルカの初代培養細胞を当初計画していたサンプリングによって複数の組織から入手することができ、陸生哺乳動物の組織培養に用いられる一般的な培養液を用いた人工培養下において、複数組織由来の細胞が数継代できることが明らかとなった。特に腎臓由来細胞の増殖効率が高く、不死化細胞株の候補として有力であることが予想された。これらの初代培養細胞については以後の実験に用いるために十分と考えられる細胞が凍結保存サンプルとして確保できた。 また予備的検討ではあるがイルカ組織由来細胞を用いて、外来遺伝子であるGFPの細胞内移入を行ったところ、高効率な遺伝子導入が可能であることが確認できたため、次年度以降に不死化関連遺伝子が同定された場合の遺伝子編集を効率的に行うために不可欠な基礎的知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、イルカ不死化細胞株樹立の起点となる初代培養細胞を入手し、基本的な増殖能を把握できたので、次年度以降は次の課題に取り組む。すなわち、イルカ細胞の増殖・維持に適した培養液の作製として、細胞を生育するのに不可欠な人工培養液において、特に尿素、浸透圧、必須微量元素などの項目について培養液組成の調整を行い、イルカの体液組成に基づいて調整した培養液を作製する。調整された培養液を用いてイルカ組織由来初代細胞を培養し、細胞増殖、細胞代謝活性を測定して細胞の増殖・維持に最適かを評価する。 続いて、イルカ細胞における増殖・老化関連遺伝子群の比較解析と標的遺伝子の探索を行う。これまでの予備検討でハンドウイルカの腎臓由来および肺由来初代培養細胞に外来遺伝子を導入して確立した腎由来細胞、肺由来細胞、また比較対照として初代培養細胞を用いて、それぞれの対数増殖期と継代終盤の分裂休止期における遺伝子発現動態を、RNA-Seqによる網羅解析で明らかにする。得られた変動遺伝子のうち、細胞増殖・細胞老化・細胞周期に関わる遺伝子群を対象に絞り、細胞増殖を負に制御する遺伝子を同定する。 その後、ゲノム編集技術によるイルカ培養細胞の増殖抑制・老化遺伝子のノックアウト 細胞周期の停止または細胞老化に関与する候補遺伝子をターゲットにして、組織由来継代細胞あるいは初代培養細胞に対してCRISPER/Cas9システムによるゲノム編集を適用し、不死化細胞株樹立を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度末に購入を予定していた試薬が製造中止となり入手不可能で代替試薬を検索中であったため次年度使用額が生じたが、翌年度はその予算を代替試薬購入費に充てて計画を遂行する。
|