本研究は、イルカの培養細胞株樹立を目指して組織由来細胞の不死化を試み、また細胞培養条件の検討を行った。細胞不死化に関わる分子機構は完全には解明されていないが、多数の不死化細胞株が樹立されている陸生哺乳類では、細胞増殖や細胞老化に関わる遺伝子の人為的制御による細胞不死化の促進が報告されているため、それらの相同遺伝子はイルカの細胞においても不死化制御の候補遺伝子となりうる。それら候補遺伝子を含む細胞不死化関連遺伝子をイルカで探索するためにイルカの初代培養細胞およびその継代細胞または増殖能を失った老化細胞を用いた発現遺伝子群の比較解析を行い、不死化関連遺伝子を同定し、それらの遺伝子の人為的制御によって無限増殖能を有したイルカ不死化細胞の樹立を目指した。 イルカの組織由来の細胞について初代培養と培養条件の最適化検討を試みた。イルカの諸臓器から一般的な組織培養条件のもとで培養を試みたところ、腎臓および肺組織を由来とする細胞において、数継代の培養が維持されることを確認した。諸臓器由来細胞の初代培養は数例試みたが、いずれの場合においても腎臓および肺由来の細胞で数回の継代が可能であった例が観察され、細胞株の樹立には、これらの臓器由来細胞を選択することが有用であると判断された。増殖が確認できた培養細胞は凍結保存処理を行い、数か月後に凍結融解した場合も再培養可能であることも確認した。なお、これら培養細胞は継代を重ねると分裂能力が低下し、継代不可能となったため、増殖能力が活発な細胞と分裂能力が低下した細胞を採材して遺伝子発現解析に供する試料を確保した。 最終年度は、不死化の誘導に関与するSV40T抗原遺伝子およびTERT遺伝子を腎臓由来細胞に導入し、導入細胞の継代を重ねることによって非導入細胞では増殖能が失われた継代数を超えても増殖能を維持したまま継代可能な細胞を得ることができた。
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