研究課題/領域番号 |
18K05832
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
廣井 準也 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (20350598)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超解像イメージング / 塩類細胞 |
研究実績の概要 |
真骨魚類の鰓に局在する塩類細胞は、Na+とCl-の排出・取り込み、H+の排出、アンモニアの排泄といった重要な生理機構を担っている。塩類細胞が外部環境と接する頂端膜にはNa+/H+交換輸送体(NHE3)が特異的に発現するが、淡水環境においてNHE3がNa+の取り込みを行うことは熱力学的に不可能と考えられてきた。しかし近年、アンモニアトランスポーターRhcg1が塩類細胞の頂端膜に共発現し、頂端膜の内側のH+濃度を上昇させるとともに頂端膜の外側のH+濃度を低下させることによって、NHE3がNa+の取り込みを行うというモデルが支持されるようになった。そこで、酸性耐性の低いニジマスと酸性耐性の高いウグイについて、通常淡水と酸性淡水における塩類細胞の微細構造を超解像イメージング技術によって観察した。ニジマスでは、NHE3とRhcg1を共発現する塩類細胞の頂端膜は、通常淡水では平坦であり、酸性淡水では平坦のまま、もしくは強い凸状・ドーム状の形態を示した。ウグイにおいても通常淡水では平坦であったが、酸性淡水ではニジマスとは逆に凹型の形態を示すようになった。ニジマスの凸状の塩類細胞の頂端膜は、NHE3とRhcg1の発現量を増やすが、鰓表面は呼吸によって絶えず水流にさらされているため、Rhcg1が排出するNH3と環境水のH+の中和反応が効率的に進まないと考えられる。いっぽう、ウグイの凹型の塩類細胞の頂端膜は、水流の影響を受けづらい半閉鎖微細環境を形成し、そこではNH3とH+の中和反応が進行して細胞外H+濃度を効率的に低下させることができるため、NHE3の機能を強く促進させられると考えられる。これらの結果は、イオン輸送体のmRNAレベル・タンパクレベルの変化だけでなく、近年では軽視されがちな、細胞の微細形態の変化が魚類の環境順応に重要であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の状況において、今年度もノルウェー・ベルゲン大学でのサケ科魚類の飼育実験が不可能となってしまった。しかし本研究の要となる各種イオントランスポーター抗体の作成と同時多重染色のシステムの構築には成功しているため、2023年度6月に予定されている飼育実験が可能になれば目標の達成が可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
海水順応力を亢進させたニジマス・大西洋サケスモルトで淡水群と海水群を設定し、最新の超解像レーザー顕微鏡(Zeiss LSM900 with Airyscan2)とデコンボリューションソフトウェア(SVI Huygens Essential)を組み合わせた超解像イメージングによって、NKAalpha1a、NKAalpha1b、NHE3b、Rhcg1などの浸透圧調節・アンモニア排泄関連トランスポーター群の細胞内局在変化を可視化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、海外の共同研究者のもとでの飼育実験が不可能となった。次年度の6月にノルウェー・ベルゲン大学での飼育実験を予定している。
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