研究課題/領域番号 |
18K05833
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
加川 尚 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80351568)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会性の発現 / 群れ行動 / 成長 / 神経ペプチド / メダカ |
研究実績の概要 |
本研究は魚類の社会性行動が、成長に伴っていつ発現しどのように発達するのか、また、社会性の発現・発達に、神経ペプチドホルモンがどのような役割を果たすのか解明することを目的としている。H30年度の実験では、メダカの稚魚から成魚に至るまでの各成長段階において、社会性行動の一つである群れ行動はふ化後4週齢頃からみられ始め、その後8週齢までに成魚と同レベルの群れ形成をとるようになること、また、神経ペプチドホルモンであるアルギニンバソトシン(AVT)の脳内発現量は8週齢ではすでに成魚と同レベルであることを明らかにした。このように、ふ化後4~8週齢の期間が群れ形成の発現に重要な時期であることが示されたことから、H31(R1)年度は、ふ化後4~8週の間、群れから隔離飼育した個体を準備し、この隔離飼育個体が他の同体サイズの通常飼育個体に対してどのような群れ行動をとるか調べた。その結果、隔離飼育個体では通常飼育個体と比べて、他個体との個体間距離が長く、他個体への接触回数が少なくなることが明らかとなった。 次に、隔離飼育個体の脳内AVTおよびAVT受容体の遺伝子発現量をリアルタイムPCR法により解析したところ、通常飼育個体と比べてAVTの発現量が有意に低いことがわかった。一方、AVT受容体の発現量は隔離飼育と通常飼育との間で差はみられなかった。 以上のことから、本年度はメダカ稚魚において群れ行動発現期での隔離飼育は他個体との群れ形成に異常をもたらすことを明らかにした。また、この群れ行動異常に稚幼魚期における脳内AVT発現が深く関連することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は稚魚期の隔離飼育個体を用いた群れ行動試験を計画通り完了した。また、この隔離飼育個体の脳内AVTおよびAVT受容体の遺伝子発現量解析実験を完了した。さらに、これらの実験結果から、次年度に計画していた行動試験の対象個体をAVT遺伝子ノックアウトメダカに絞ることと判断した。このように本年度得られた実験結果は、次年度に計画している実験のスムーズな開始に繋がることから、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの実験結果を受けて、R2年度はAVT遺伝子ノックアウトメダカを用いて群れ行動試験を行い、AVT欠損が成長に伴う社会性発現にどのような影響を示すか精査する。加えて、AVT欠損が脳内のモノアミン神経の活動に及ぼす影響を調べ、群れ形成に機能する脳内機構についてAVT神経とモノアミン神経の役割を中心に解明する。さらに、最終年度までの実験結果を統括し、魚類の成長に伴う社会性発現における当該神経を中心とした脳機能についてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:H31(R1)年度の行動実験では隔離飼育個体と通常飼育(対照)個体との間で、群れ行動に違いがみられた一方で、両者の脳内AVT受容体の発現量に差は認められなかったことから、R1年度に計画していたin situハイブリダイゼーション法による組織学的なAVT受容体の発現解析を行う必要性がなくなった。そのため、当該解析実験に要する試薬費が次年度使用額となった。 使用計画:R2年度は当初の計画通りAVT遺伝子欠損メダカの稚魚を用いて社会性行動解析を実施する。一方、AVTはモノアミン神経系と連関して行動や種々の生理機能を脳内で制御することが近年報告されていることから、本研究ではR2年度に実施する行動解析実験に加えて、新たに脳内モノアミンの合成関連遺伝子の発現解析を実施し、AVT遺伝子欠損が行動異常を来す脳内機構に関して詳しく調べる。次年度使用額をこの解析実験に充てる。
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