研究課題/領域番号 |
18K05834
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
竹内 猛 沖縄科学技術大学院大学, マリンゲノミックスユニット, 研究員 (60599231)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アコヤガイ / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
アコヤガイによって作られる養殖真珠は日本でもっとも重要な水産資源の一つである。アコヤガイの突然変異で、貝殻に色素沈着が起らない、白色貝が知られている。白色貝は純白の真珠をつくるのに利用されるため、真珠養殖業で需要が高いが、貝殻白色化の分子メカニズムは不明である。本研究では、遺伝子ノックダウンによる遺伝子機能阻害実験を行うことで、貝殻白色化に直接関与する原因遺伝子を同定する。さらに、二枚貝で初となるゲノム編集技術を確立するとともに、白色アコヤガイ系統の作出を目指す。 アコヤガイの貝殻白色化原因遺伝子の特定を行うため、vivo morpholinoによる遺伝子ノックダウン実験の条件検討を行った。候補遺伝子を標的としたvivo morpholinoオリゴを設計し、これを加えた海水中でアコヤガイ幼生の初期発生飼育を行った。今年度の実験では、試験区・コントロール区ともに幼生の発生率が十分でなかったため、vivo morpholinoの効果を検証することはできなかった。 また、アコヤガイのゲノム編集を行うための準備として、卵巣にガイドRNA・Cas9 Nuclease複合体をリポフェクション試薬とともに注入し、処理した卵を用いて人工受精を行い、閉鎖系水槽設備での発生および幼生の飼育を行った。そして、実験処理した卵でも正常な受精・発生が可能であること、閉鎖環境においても長期間の飼育が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アコヤガイの貝殻白色化原因遺伝子の特定を行うため、vivo morpholinoによる遺伝子ノックダウン実験の条件検討を行った。まず、貝殻白色化原因候補の遺伝子のcDNA配列および遺伝子モデルの配列をもとに、開始コドン周辺を標的としたvivo morpholinoを設計した。海産無脊椎動物において、vivo morpholinoを添加した海水中で初期発生胚を飼育することで、幼生の遺伝子ノックダウンが可能であることが報告されている。そこで、vivo morpholinoを加えた海水中でアコヤガイ幼生の初期発生飼育を行った。今年度の実験では、試験区・コントロール区ともに幼生の発生率が十分でなかったため、vivo morpholinoによる遺伝子機能阻害の効果を検証することはできなかった。 アコヤガイのゲノム編集技術を確立するため、ゲノム編集実験に用いる試薬の生体への導入方法と、ゲノム編集を行った動物を閉鎖系水槽で飼育するための設備の検討を行った。まず、成熟したアコヤガイの卵巣にガイドRNA・Cas9 Nuclease複合体をリポフェクション試薬とともに注入した。実験処理したアコヤガイは1週間、閉鎖系水槽内で養生した後、人工授精に用いた。実験処理により養生中に死亡したり、顕著に受精率が低下した個体は観察されなかった。また、実験処理後に得られた受精卵は閉鎖環境においても正常発生と成長がみられ、長期間の飼育が可能であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度のvivo morpholinoによる遺伝子ノックダウン実験では、幼生の発生率が十分でなかった。試験区だけでなくコントロール区でも十分な発生が見られなかったため、原因はvivo morpholinoによるものではなく、実験に用いたアコヤガイの状態や飼育方法に問題があったと考えられる。今回の実験では、海水1mL中で発生を行ったが、少量の海水では温度変化や海水中の酸素濃度の低下などが懸念され、これが正常発生率の低下に影響した可能性がある。次年度は、飼育する海水の容量を増やすなどの条件検討を行う。 ゲノム編集実験については、今年度に実施し実験処理法でも動物の発生と飼育が可能であることが確認された。次年度は、ポジティブオントロールとして、蛍光タンパク質やプラスミドを卵へ導入し、導入効率の検討を行う。さらに、貝殻白色化原因候補の遺伝子のゲノム配列を標的としたガイドRNAを設計し、これをゲノム編集実験に用いる。そして、貝の表現型(貝殻の色に変異が見られるかどうか)や、PCRとシーケンシングによりゲノム編集の効率を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の実験に使用した試薬の費用が、当初の計画よりも抑えられたため。
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