研究課題
アコヤガイによって作られる養殖真珠は日本でもっとも重要な水産資源の一つである。アコヤガイの突然変異で、貝殻に色素沈着が起らない、白色貝が知られている。白色貝は純白の真珠をつくるのに利用されるため、真珠養殖業で需要が高いが、貝殻白色化の分子メカニズムは不明である。本研究では、遺伝子ノックダウンによる遺伝子機能阻害実験を行うことで、貝殻白色化に直接関与する原因遺伝子を同定する。さらに、二枚貝で初となるゲノム編集技術を確立するとともに、白色アコヤガイ系統の作出を目指す。アコヤガイの貝殻白色化原因遺伝子の特定を行うため、vivo morpholinoによる遺伝子ノックダウン実験の条件検討を行った。複数の標的遺伝子配列や、様々な濃度のvivo morpholinoオリゴを加えた海水中でアコヤガイ幼生の初期発生飼育を行った。いずれの実験条件においてもオリゴ未添加のコントロール群に対して、幼生の発生に大幅な遅延が見られた。また、アコヤガイのゲノム編集を行うため、卵巣にガイドRNA・Cas9 Nuclease複合体をリポフェクション試薬とともに注入し、処理した卵を用いて人工受精を行い、閉鎖系水槽設備での発生および幼生の飼育を行った。得られた幼生のゲノムDNAの編集効果を確認するため、PCRおよびシーケンシングを実施した。今後は実験の改善と継続に加え、アコヤガイ全ゲノム情報を一新し、染色体スケールのゲノムアッセンブル構築を行う。これにより、白色化原因遺伝子の絞り込みや、ゲノム編集のためのガイドRNA設計の精度向上を目指す。
3: やや遅れている
アコヤガイの貝殻白色化原因遺伝子の特定を行うため、vivo morpholinoによる遺伝子ノックダウン実験の条件検討を行った。複数の標的遺伝子配列や、様々な濃度のvivo morpholinoオリゴを加えた海水中でアコヤガイ幼生の初期発生飼育を行った。いずれの実験条件においてもオリゴ未添加のコントロール群に対して、幼生の発生に大幅な遅延が見られた。このことから、vivo morpholinoはオリゴ配列非特異的に幼生の正常発生を阻害するため、特定の遺伝子を標的としたノックダウンには効果的でないことが示唆された。また、アコヤガイのゲノム編集を行うため、卵巣にガイドRNA・Cas9 Nuclease複合体をリポフェクション試薬とともに注入し、処理した卵を用いて人工受精を行い、閉鎖系水槽設備での発生および幼生の飼育を行った。得られた幼生のゲノムDNAの編集効果を確認するため、PCRおよびシーケンシングを実施した。その結果、ターゲットとなるゲノム領域においてDNA配列の改変は確認できなかった。今後の実験により、ガイドRNA・Cas9 Nuclease複合体の導入やゲノム編集効率を改善する必要がある。
本年度は社会情勢上の理由から、アコヤガイ産卵時期である春~初夏の期間に、アコヤガイの受精・幼生の飼育が可能な実験施設へアクセスすることが困難である。そこで今後は、受精卵や幼生を用いずに可能な限りの実験を行い、研究を推進する。遺伝子ノックダウン実験に関しては、これまでの実験からvivo morpholinoオリゴがアコヤガイ幼生の正常発生を阻害することが示唆された。そこで今後の実験では、薬剤の毒性に対する影響が比較的少ないと考えられる、成体を用いた実験系を構築する。すなわち、アコヤガイ成体の外套膜へのvivo morpholinoオリゴやdsRNA導入法により、貝殻白色化原因遺伝子のノックダウンを行う。ゲノム編集実験については、無細胞実験系でのゲノム編集実験を行う。標的遺伝子のDNA配列に基づいて複数のガイドRNAを設計し、それぞれの配列についてin vivoでのゲノム編集効率を評価する。また、これまでに利用していたアコヤガイゲノムデータを一新し、染色体スケールのゲノムアッセンブル構築を行う。これにより、白色化原因遺伝子の絞り込みや、ゲノム編集のためのガイドRNA設計の精度向上を目指す。
コロナウイルス感染拡大防止のため、参加予定であった学会が中止となり、また実験を延期せざるをえない状況であったため、次年度使用額が生じた。該当の予算は次年度の実験に必要な試薬の購入に充てる。
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Evolutionary Applications
巻: 13 ページ: 837~853
10.1111/eva.12905