研究課題/領域番号 |
18K05835
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
小林 英城 東洋大学, バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター, 客員研究員 (40399564)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カイコウオオソコエビ / アルミニウム / グルコノラクトン / 炭酸塩補償深度 |
研究実績の概要 |
本年度、カイコウオオソコエビの外骨格中の炭酸カルシウムが、アルミニウムにより保護されていることを論文にまとめて、PLoS one誌に発表した。炭酸塩補償深度より深い所に生息し、炭酸カルシウムが溶解する超深海に生息するカイコウオオソコエビが、外骨格に炭酸カルシウム結晶を維持できる理由の一つが明らかとなった。堆積物中の粘土鉱物からグルコノラクトンにより抽出されたアルミニウムは、弱アルカリ性の海水中ではアルミニウムゲルを形成する。アルミニウムゲルが、外骨格表層を覆うことで海水の侵入を防いでいると予想された。一方、グルコノラクトンがなぜ堆積物からアルミニウムを抽出できるのかは不明である。 以前、カイコウオオソコエビのRNAシーケンシングを行ったとき、Psychrobactor等の海洋性バクテリア由来の遺伝子を多数見出すことが出来た。Psychrobactorを始め、バクテリアは特殊な脂肪酸の合成を行うことが知られている。特にドコサヘキサエン酸等の多価不飽和脂肪酸は、カイコウオオソコエビにも含まれており、外骨格に含まれているワックスエステルの素材でもある。そこで、バクテリアの分離を試み、微好気環境においてバクテリアの増殖が認められた。そこで、本バクテリアのゲノム解析を行い、脂質合成に関与する遺伝子の検索を行った。しかし、本バクテリアは磁性細菌の一種で、RNAシーケンシングデータには本菌由来の遺伝子は含まれていなかった。したがって、本菌は海水や堆積物から混入したと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カイコウオオソコエビ外骨格中に存在する炭酸カルシウムが存在できる理由の一つが分かった。これは、本研究の課題を一つクリアしたことになる。また、これまで利用されたことのないアルミニウムが生物で利用される事例の一つであり、全く新しい概念を生物とアルミニウムの関係に与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、グルコノラクトンがどのように粘土鉱物からアルミニウムを抽出するのか、について検討を行う。グルコノラクトンはpH7付近を境に、アルカリ性側でグルコン酸に変化し、キレート剤として働く。そのため、鉱物結晶中において分子構造が変化し、結晶中からアルミニウムを抽出するという可能性がある。そこで、グルコノラクトンを粘土鉱物に作用させた後で、X線結晶分析にてアルミニウムのピークの変化を観察することで、どのように抽出されるのかが分かると考える。 グルコノラクトンは一般的な化合物であり、広く生物に分布している。一方で、ヒトも例えばモリブデンのような鉱物由来の金属元素を必須元素としている。これら鉱物由来の金属イオンも、実はグルコノラクトンが鉱物から抽出している可能性がある。そこで、グルコノラクトンを様々な鉱物に作用させて、どのような金属イオンが抽出できるのか、について検討を行う。生物の微量必須元素抽出方法について、新しい知見が得られると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行のため、参加予定だった日本農芸化学会大会が中止となった。その結果、使用予定だった旅費分が次年度に繰り越しとなった。繰り越した分は、生物工学会等の別学会に参加する予定である。
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