研究課題/領域番号 |
18K05837
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
村下 幸司 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 主任研究員 (60597649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メダカ / 栄養素認知 / 腸管 / アミノ酸 / 消化 / CasR |
研究実績の概要 |
持続可能な魚類養殖のためには,現在の魚粉主体飼料を植物性原料主体飼料へ切り替えなければならないが,植物性原料では魚の消化機構が作用せずに栄養の利用性が低くなる。植物性原料によって消化機構が誘導されないのは,それが魚の腸管で「栄養素」として認識されないためだと考えられる。植物性原料の利用性向上には栄養素認知システムに着目した技術開発が有効であると考えられるが,魚類では栄養素の認知機構自体が不明であり,その消化への関与も明らかでない。そこで本研究では,魚類における栄養素の認知とその後の消化誘導の機構を調べることを目的に、栄養素(アミノ酸)受容体としてcalcium-sensing receptor (casr) が欠損したモデル魚(メダカ)を作出し、消化生理に関する表現型を解析する。 昨年度までに、メダカにおけるcasr cDNA塩基配列を決定し、CRISPR/Cas9によるcasr欠損魚の作出に着手し、機能欠損が導入される変異をヘテロに有する個体を得た。今年度は、ヘテロ変異個体同士を掛け合わせ、HRM解析やシーケンス解析によってスクリーニングすることで、ホモ変異個体を作出した。本ホモ変異個体は、フレームシフト変異(19塩基欠損)によって機能ドメインより前に停止コドンが導入されており、完全な機能折損が予想される。また、メダカcasrの基礎的知見を収集するため、組織発現分布を調べたところ、腸前方部で強く発現することが明らかとなり、腸管での栄養素認知に重要な役割を持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、casrホモ変異個体を作出し、さらにそれらを掛け合わせることで続く実験に十分量の魚を供給する体制を整えた。作出したホモ変異個体は、フレームシフト変異(19塩基欠損)によって機能ドメインより前に停止コドンが導入されており、完全な機能折損が予想される。また、メダカcasrは主に腸前方部で強く発現することを明らにし、腸管での栄養素認知に重要な役割を持つことが示唆された。ほ乳類では、CasRが欠損することで、致死的になる等の重篤な障害が生じる一方で、副甲状腺ホルモンを同時に欠損させることでそれら重篤な障害がレスキューされることも分かっている。本研究では、重篤障害のレスキューを目的に副甲状腺ホルモン欠損メダカの作出も同時に行ってきたが、casr欠損メダカには重篤な障害は確認されず、次世代も問題無く作出可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
casr欠損メダカを作出し、実験に十分量の試験魚を供給する体制も整ったことから、異なる成長段階(仔魚期、幼魚期、成魚期)の魚を用いて、消化機構に着目した表現型解析に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
R2度初めにcasr欠損メダカの表現系解析を行う目的で、R1年度末に予算を執行する可能性があったため予め予算を確保していた。R1年度末からR2年度はじめにかけて、ノルウェーからの研究協力者が滞在して表現系解析を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で早期帰国したことから、次年度使用額が生じた。表現系解析はR2年度に実施する予定のものであることから、研究の進捗状況に問題は生じていない。次年度使用額は、当初の目的通りに表現型解析のために使用する。
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