本研究課題では、卵食共食い型サメ類の栄養卵を形態学的・組織学的・生化学的・分子生物学的に詳細に比較・検討することで、その実態を明らかにすることを目的としている。 本年度はネズミザメ栄養卵の実態解明に向けて、栄養卵、栄養卵供給時期の卵巣および交尾期の卵胞のプロテオーム解析(DIAプロテオーム解析)を実施した。タンパク質を同定するためのリファレンス配列には昨年度実施したde novo transcriptome assemblyから得られた36000本のコンティグを利用した。解析の結果、約4200のタンパク質が同定された。さらに、各サンプルを定量的に比較した結果、栄養卵及び栄養卵供給時期の卵巣では検出されず、交尾期の卵胞でのみ検出されるタンパク質を複数確認することができた。これらの中には、精子の先体反応に関わると推察されているタンパク質、生殖細胞の発達に関わるタンパク質が含まれていた。一方、栄養卵と栄養卵供給時期の卵巣にのみで検出されるようなタンパク質は確認されなかった。これらのことから、栄養卵は単なる未受精卵(受精可能な卵)ではなく、交尾期に産生される卵胞(受精後、胚発生が進行する卵)とは異なることが示唆された。栄養卵と卵胞では検出されるタンパク質の多くが重複していた上、栄養卵特異的なタンパク質が検出されなかったことから、栄養卵は卵形成の途上で発育を止めたものである可能性が考えられた。 断続的な排卵と性ホルモン(E2、T、P4)との関係を明らかにするため、前年度に引き続き雌オオテンジクザメ3個体に対し6月上旬に8日間の連続採血およびエコーによる生殖器官の観察を行った。エコー観察の結果、3個体のうち2個体は排卵が確認できたが、残りの1個体は確認できなかった。この個体の性ホルモン濃度は低値で推移しており、昨年度の結果も考慮すると、性ホルモンが排卵に関与していることが強く示唆された。
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