インドネシア、中部ジャワ州、クドゥス県の水利組合では、2003年以降、現地農民によって考案されたレランと呼ばれる水利制度が普及した。この制度は、組合が主催するオークションによって組合長が選出される。インフラ投資資金の拠出額の多寡に応じて水利組合長が決定され、水利組合長は農民から徴収した水利費を独占できる。オークションの落札金は組合管理区域のインフラの整備資金に充当される。この制度を採用する組合では村や県の支援なしにインフラ整備が進んでいた。レラン制度の普及の背景には、1987年以降の灌漑管理移管政策の導入など政策的な変化もあるが、農民側からのニーズもあった。すなわち、乾季に灌漑を利用してメロンやスイカなどの作物を栽培したいという意向を持つ農家が増加傾向にあること、労働力不足により3次水路の維持管理が難しくなりつつあること、農道、橋梁、水路などのインフラ投資に多額の資金が必要になったことがレラン制度普及の主たる要因である。特に、この制度の下では、農家のインフラ投資の要望は高く、短期で投資資金を捻出でき、インフラの整備がスムースに進む。レラン制度を経済的に評価するには、水利組合長が徴収する水利費と拠出する投資資金とのバランス、インフラ投資の効果の問題、水利組合長による灌漑水供給のインセンティブ、乾季における灌漑水の効果などについて多角的に分析する必要がある。このため、第1次接近として、灌漑用水の供給について経済学的に考察した。
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