研究課題/領域番号 |
18K05840
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
仙北谷 康 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50243382)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 収入保険 / 家畜共済 / 酪農経営 |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究成果は、主として次の二点である。第一は、家畜保険の経済学的背景と成立の経過を、戦前戦後の家畜保険導入当時、家畜共済に再編された目的、その間の議論、をとおして明らかにした。第二は、これまでの一連の成果を、「農業経営研究」(日本農業経済学会)に研究成果として投稿し掲載されたことである。 第一の成果について、わが国の家畜共済制度には、一般的な保険制度とは異なる性格が付与されている。それは共済という、相互扶助の性格が強い保険制度という視点からもやや特殊な性格を持つ。それは端的に述べるならば、農業経営体が内部化すべき(自らで対応すべき)リスクが、制度に外部化されている(制度での対応に依存している)のである。これについては、家畜保険制度開始当初は、そのような考えではなく、あくまでも保険的な制度設計を想定していた。つまり、冷害などの自然災害は保険で保障するのは適切ではなく、家畜死廃事故であれば保険での保障が可能であるという判断であった。ここで興味深いのは家畜事故の中でも、疾病傷害事故は対象とせず、あくまでも死廃事故のみに限定していた点である。これは現在、民間企業による人間への保険商品にもいえることであり、保険原理の適用を考える上で示唆的である。 戦後、食糧確保が最優先される中で、農畜産業を安定させるため農業災害補償法が施行され、現在の共済制度の原型が形成された。それは従来までの保険の範囲を大きく超えるものであったが、政策的判断によって実施されるという経緯も明らかになった。 これらのことを踏まえ、農業収入保険が、リスクマネジメントツールとして機能するためには、農業経営体のリスクを的確に判別することである。その上で保険として対応すべきか、外部化し費用として対応すべきかを判断し、保険としての対応が適切であるリスクを収入保険の目的とすべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究終了期間であった令和2年度までで研究が終了しなかったため、「(3)やや遅れている。」とした。研究が終了しなかったのは、昨年令和2年度に予定していた、収入保険に加入している農業者に対する聞き取り調査等が、新型コロナウイルス感染症対策のため、全く実施できなかったためである。 リモートで調査を実施するということも考えられるが、電子メイルではコミュニケーションに齟齬が生じる可能性があることと、zoomについては調査農家が対応可能か不明であるため、実施することはなかった。 しかし全く調査研究が進展しなかったわけではない。進展の第一は、家畜共済と収入保険の関係を整理できたことである。農業所得形成の性格上、酪農経営体と畑作経営体では、収入保険に対する需要が異なるのである。つまり、酪農経営では、ほとんどの経営体が加入している家畜共済によって、ストックである乳牛が死廃事故等で失われ、フローである生乳販売が減少し、収入が減少するとしても、家畜共済によって後継の乳牛確保が可能であり、生乳生産とその代金取得がある程度実現可能なのである。制度上は家畜共済と収入保険の重複加入は可能であるが、現実的に重複加入している酪農家はほとんどいない(育成牛の加入と収入保険の重複加入は認められていない)。これに対して畑作経営体では収入保険ならびに畑作物保険ともに収入及び産出という「フロー」に対する保険・共済であるから、重複加入は認められていない。これらの点を明らかにした。 進展の第二は、新たな調査に充てられなかった時間を、これまでの研究とりまとめと、上に示した成果のとりまとめに費やし、やや長めの研究論文として投稿、受理されたことである。 これらの進展があったため、新たな調査は実現しなかったが、やや遅れているにとどめた。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症対策の緊急事態宣言がどのような扱いになるか不明であるが、それを踏まえて、今年度推進すべき研究課題はおおよそ二つに集約できる。第一は研究活動の自由度が増した場合に、農家調査を実施することである。これについてはすでに畑作経営体、酪農経営体それぞれから調査協力の承諾を得た。またこのうち酪農経営体はzoomでの対応も可能のようであるため、リモートでの聞き取り調査も想定している。これによって、収入保険、家畜共済利用の方針等について、酪農家としての考えを聞き取る。畑作農家について、zoom利用が今後どのようになるかは、現時点では不明であるが、近隣の経営体であるため、緊急事態が解除された場合は訪問することを考えている。ただし、もちろん畑作の作業の季節性を踏まえる必要はある。 第二は、本研究では酪農経営体に重点を置いているため、酪農経営体の収入及び所得形成、その不安定性を論理的に明らかにし、それと収入保険の役割とを整合的に理解することである。収入保険は、収入の変動リスクに対応するための制度であるため、所得の変動とイコールではない。しかし、個体の死廃の増減によって、乳牛減価償却が変動し、そのため課税対象となる所得が変化することがあり得る。この変動を、家畜共済、収入保険でどの程度補償可能であるのかという点は、これまで検討されてきていない。酪農所得形成の複雑性故と考えられる。この実態を統計データとシミュレーションによって明らかにし、酪農収入、所得の変動に対する収入保険の役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
大幅な次年度使用額が生じたのは、令和2年度には新型コロナ感染症対策のため、調査研究、具体的には調査、学会等参加のための出張が、制限されていたためである。 今年度に関しては、論文掲載にかかわる費用への支出をはじめ、可能な限り調査、学会、研究会等への出張に研究費を支出する。
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