本研究は、農業収入保険をリスクマネジメントツールとして機能させるためには、類似的性格を持つ家畜共済制度の再編が必要であることを明らかにした。 家畜共済制度のなかの死廃共済制度は、家畜という償却資産(ストック)の損失補償であるが、乳牛の死廃事故に対する共済金によって代替乳牛の導入が可能であるから、生乳生産の継続が実現し、フローである乳代収入も補償される。このため乳牛死廃事故を対象とした死廃共済は収入保険と類似する効果を持つのである。 しかし、そもそもリスクマネジメントツールとしての共済(保険)が対象とするリスクは、発生確率は非常に低いが、発生した場合は経営の存続に与える影響が甚大であるような事象であるべきである。しかし家畜共済は家畜死亡事故を一律に補償対象としているため、乳牛1頭の死廃事故についても補償の対象としている。しかしこの事故が酪農経営の経営存続に与える影響を評価した場合、保険の対象としては考えにくい。経産牛100頭を飼養している経営においては乳代集乳の1%を失うに過ぎないからである。 これに対して例えば収入の30%を失うような事故は、生乳価格の安定性と乳牛死廃事故率(北海道ではおよそ5%)という点を踏まえるならば、保険で補償するべきリスクと言える。しかし家畜共済制度は、収入保険が補償するリスクを含む広い領域を対象としているため、酪農経営が農業収入保険に加入する必要性は、現状としては低い。 家畜共済には病傷共済制度も存在するが、これは厳密には保険とは言い切れない性格の制度であると共に、いわゆる「第三の保険」としてのあらたな理論的整理が必要である。家畜病傷事故発生とその対応を分析することは、家畜福祉の面からも非常に重要であるといえる。そのためこの研究課題については、あらたに基盤研究(B)(一般)の給付を受け、現在分析研究を進めている。
|