本年度は,コロナ禍の影響で1年延長した本研究の最終年度として,①昨年度予定していた,九州北部の主産地の零細製粉企業2社に対する現地調査のうち実施できなかった1社に対する現地調査を行うとともに,②平成30年度~令和2年度までの研究成果を併せた本研究の総取りまとめを行った。 ①に関してはI社に対する調査を行った。同社は年間の製粉量が約300tであり,昨年度調査した年間生産量約600tのH社よりもさらに規模が小さく,家族3名で作業を行っている。同社の製粉原料のほぼ100%が同社所在県の県産小麦で,製品小麦粉はほとんどが石臼挽きである。販売先は九州から関西まで広範囲に亘るが,固定した小規模の菓子メーカーやリテールベーカリーが中心である。同社でも,地場産小麦使用・石臼挽き中心という,H社と同様の特徴が見られた。 ②については,輸入小麦政府売却方式・国産小麦取引方式における規制緩和の下で,大手製粉企業が製粉原料の大宗を輸入小麦に依拠する体制を維持しつつ,工場の集約化によって価格競争力の強化を図り,国内での小麦粉販売シェアを確保しようとしているのに対して,中小製粉企業は小規模になればなるほど製粉原料を地場産小麦に依拠する度合いが高くなる傾向があり,国産小麦取引方式における規制緩和も利用しながら,地場産小麦使用と石臼挽きという特徴ある小麦粉を前面に打ち出すことによって小麦粉の販売競争に対応しようとしていることがわかった。そして,中小製粉企業のこのような取り組みには農商工連携の性格も含まれていて,地域経済の活性化に貢献する要素があるということもわかった。
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