研究課題/領域番号 |
18K05844
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹田 麻里 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (60529709)
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研究分担者 |
荘林 幹太郎 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (10460122)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 灌漑用水 / 従量課金制 / 外部性 / 脳死集積 / 農地の大区画化 / 農場内投資 |
研究実績の概要 |
2019年度は用水ブロック単位の従量料金制を導入している地域において、21年間にわたるパネルデータを収集・整理し、①用水需要の価格弾力性、②ブロック単位での従量料金制において、農地集積によってブロック内の耕作者が減少し、水利用の外部性が低減すると、自身の節水が用水ブロックの水利費(使用水量あたり)の低減につながりやすくなるという点で節水のインセンティブを強くすると考えられるが、実際にそのような行動が観察されるか、という2点について、パネルデータ分析によって実証的に検証した。 その結果、①の用水需要の価格弾力性については、0.4程度であり、湿潤地域の水田作を対象とした先行研究とほぼ同水準である可能性が高い結果が得られた。 また、②農地集積の集中度の増大が水利用の外部性の低下を通じて節水につながるか、については、農地集積と取水量の関係が線形ではない可能性が高いことが示された。具体的には、農地集積の集中度が低いレベルで追加的に農地集積が進むと取水量は減少する方向に働くが、集中度が一定レベルを超えると農地集積によって取水量はむしろ増える方向に作用するということである。これは、農地集積が進展し、耕作地が増えると、水管理労働も高まるため,水利用の外部性が低下して節水のインセンティブが増大しても、必要とされる水管理労働が大きければ、節水行動にはつながらない可能性を示している。つまり、農地集積の進展が、水利用の外部性の低下を通じて節水を促すという効果と、耕作地の増大による水管理労働の増大を通じて節水が難しくなるという効果という相反する効果をもたらすことを示唆している。今後、さらに精緻な実証分析を追加する必要があることが示唆された。 もう一つの研究課題である大区画化の選択要因については、対象地区の5つの大規模耕作者の耕作地に関する15年間分の地理情報データを入手し、解析作業に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
従量課金制については、データの分析が終了し、学会報告および投稿段階まで整理されたため、おおむね進捗通りであると考えられる。 一方、大区画化の選択要因については、当初の計画通り2019年度内に具体的なデータ収集までは終了したが、調査対象地域(滋賀県)と協議し、農閑期である2020年2月後半に実施を予定していた大規模耕作者への面接調査については、新型コロナウィルス感染症のよる外出自粛もあり、実施することができなかった。この点については、引き続き現地と連絡を取りあっており、申請者の所属機関および調査受入機関における対策に即しながら、無理のない範囲での対応が行える見通しがある。 また大区画化の選択要因に関する国際比較については、特にイタリアにある国際機関の研究者らとのネットワークを事前に構築し、イタリア出張を2020年3月中旬に行うための協議をおこなっていたが、上述の国内調査同様、出張が困難となった。また、米国出張についても同様であり、状況の見通しが立てづらい状況にある。そのため文献調査、ウェブ会議システムやメール等のオンラインツール、衛星画像等を利用して、リモートワークでの調査研究に切り替えるべく調査方法を修正している。
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今後の研究の推進方策 |
国内で実施できる研究として、従量料金制の分析については、現時点でそろっているデータをもとにさらに、データの分割やデータの集計単位を年単位から灌漑期単位等に変えることによって分析の精緻化を行い、用水ブロック単位の従量料金制を導入した場合の制度の評価に耐える水準まで研究を高める予定である。また、分析で明らかとなった用水需要の価格弾力性の値および土地改良区の複式簿記情報などを活用し、灌漑用水を水道料金制度(2部料金制、減価償却費は現在の利用者が負担する仕組み)としたうえでブロック単位の従量課金制にした場合のシミュレーション分析などを行う。 大区画化の選択要因に関する分析は、すでにデータが得られているため、解析を進める。大規模耕作者へのヒアリング調査については、現地との調整を行いつつ可能な方法を検討して実施する。この点の国際比較については、国際機関勤務者等とのテレビ会議等を利用して進めるなど、今年度の状況をみながら柔軟に対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度冬期(2020年2月~3月)に実施する予定であった国内調査(大規模耕作者5名に対する区画選択のヒアリング調査(滋賀県))およびイタリア・米国での区画選択と農場内投資に関する海外調査が新型コロナウィルスによる影響で困難となったため、旅費の使用が大幅に減ってしまっている。 この点については、現地調査が再開できる国内の大規模耕作者に対するヒアリング調査については、現地の協力が得られる限り、2020年度に使用する。また、比較対象として集落営農の区画選択状況を把握することも研究計画に含まれているため、隣接市町村(東近江市等)でのヒアリング調査や衛星画像を購入しての解析を検討する予定である。 海外については、渡航の可能性等も含めて柔軟に対応する必要があるが、必要であれば研究期間を1年間延長し、イタリアでの調査が可能となるタイミングで実施するほか、衛星データ等を購入し、定量的な評価研究を行い、その成果をテレビ会議等で現地の研究者とを用いて議論するなどの方法で、出張調査にかわる有効な方法を試みる。 さらに、複数の学会や国際会議から研究発表の依頼があるため、可能なかぎり国際的に発表する場を活用し、英文投稿・学会発表等などで研究費を使用する計画である。
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