研究課題/領域番号 |
18K05845
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山根 裕子 名古屋大学, 農学国際教育研究センター, 学振特別研究員(RPD) (70528992)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水利組織 / レボルビングファンド / 横領事件 / 国家灌漑公社 |
研究実績の概要 |
昨年度は8月及び3月に渡航し、対象としているケニア西部のビクトリア湖岸地域の稲作と水利組織の活動の実態を明らかにするための調査を行い、情報収集に努めた。また、論文執筆も行い、計3報の論文が掲載に至った。 8月の渡航の際に、ケニア政府の管轄下にあるアヘロ灌漑地区において農民組織の一つであるレボルビングファンドで資金の横領が発覚し、その組織の長少なくとも2人が警察に捕まってしまった。昨年までは農民の組織に対する評価も高く、問題なく水利運営ができていたのだが、この横領事件は8月の渡航中に突然発覚したため、3月にも経過を観察しに行った。8月は、事件発覚後すぐ国家灌漑公社のマネージャーを中心とした役人が、事態の収拾を試み、農民への状況説明を12ブロックのそれぞれの農民グループに対して行い始めていた。稲作は各ブロックごとに毎月行われるため、事件は各直後はそれまでレボルビングファンドの資金で賄われていた稲作に必要な資金の調達が困難になり、農民は各自資金集めに奔走しているようであった。3月では、国家灌漑公社の役人が水利組織の運営に介入し、地域の稲作は継続することができていた。2000年前後、国家灌漑公社の稲作の強要に農民が反発して農民組織が主体となって運営する体制が作られたが、20年経過し、その体制が崩れ、立て直される様子の詳細を記した報告見られない。3月には農民組織への評価を問う調査を再度行ったので、事件発覚前と後での農民の意識の差を見ることが可能で、今後、その解析をする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査は順調に進んでおり、論文執筆も予定どうりに行えている。本年度は投稿論文に加え、書籍も執筆する予定である。また、資金の横領発覚前と発覚後の農民の意識調査も行えたので、農民が自分たち代表者に対する意識がどのように変化したのかも追えている。横領事件の発覚前は、皆、代表者を恐れて良いことしか言わない傾向があったのだが、横領事件は覚悟は、良くも悪くも、代表者の人となりや、仕事ぶりに対して思うところを言うように変化してきた。水利組織やレボルファンド等の代表者は、地域の社会の軸となっている父系拡大家族の中でも重要な役割を担ている人物でもあったが、人々が思うところを口にするような状況になったことによって実際の組織の成立ちがどうであったのかが理解できるようになっていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も定期的に現地調査を行い、今後も定期的に調査地に向かい、農民組織と国家灌漑公社の関係性の変化に関する情報を収集しつつ、データをとり、論文執筆をつづける予定である。横領発覚後も地域社会の中では横領をした張本人を罰するという行為は見られなかった。これは共同体に対して害をなす個人に対し、アジアではパニッシュメントが加えられるが、アフリカではそれが見られないというアフリカにおいて一般的に見られる現象であると考えられる。こういった特徴が水利組織の運営を難しくしているのだと考えられるが、国家灌漑公社が関与して運営が行われることによってどのような効果が見られたのか今後解析していき、アフリカ的な水利組織の健全な運営に必要な条件を抽出していきたいと考えている。
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