研究課題/領域番号 |
18K05855
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
栗田 匡相 関西学院大学, 経済学部, 教授 (60507896)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 技術普及 / ネットワーク / マダガスカル / フィールド実験 / 制度形成 / PAPRIZ / サブサハラ / 実験経済 |
研究実績の概要 |
本研究では、マダガスカルにおける稲作技術(PAPRIZ)普及のための住民組織形成と社会ネットワークの構築という具体的な制度形成のプロセスについて、近年盛んに行われるようになった社会実験の手法を導入した分析を行っている。具体的には、化学肥料と農法を記したガイドブックが同封された新技術導入パックをマダガスカルの複数の村内で配布する実験になるが、制度形成のプロセスが異なる配布方法を複数用意し、どのタイプの配布方法でもっとも効率よく技術の普及が行われるか、並びに稲作の生産性が向上するのかを観察するものである。現地で農業技術の普及を行っている団体(PAPRIZ)との共同研究として行うことで、学術的な価値だけではなく、政策論としての貢献も極めて高い研究となっている。 2019年度調査では、マダガスカル中央高地の100ヶ村近い村々を回り、各村で化学肥料、適正品種の籾米、農法を記したガイドブックが同封された新技術導入パックの販売実験をPAPRIZとの共同プロジェクトとして行った。400名を超える農民へ販売を行ったが、追跡調査では、多くの購入者が使用の継続を望んでいることが判明した。2020年度はこうした購入者を足がかりに、農業技術普及のための効果的な施策を検証・調査する予定であったが、コロナウイルスの影響により2020年度中の調査を行うことができず、収集したデータの整備や論文の執筆に多くの時間を割いた年度となった。こうした論文を報告する機会もコロナウイルスの影響もあり限られていたが、幸運なことにJICAの農村開発部での勉強会やマダガスカル研究懇談会などで報告の機会を得ることもでき、研究の進展に大いに役に立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はコロナウイルスの影響により現地での調査ができなかったが、2019年度までに当初の計画以上に進展していた調査のおかげで、論文執筆に時間をあてることができた。複数の論文を執筆中ではあるが、例えば農業技術普及における普及員の役割と適性を検証した論文においては、技術指導を行う指導者と普及員の関係性や普及員の性格特性が農業技術の普及において重要な影響を及ぼしていることが明らかになった。こうした観点から途上国における農業技術普及を論じた論考は極めて少なく、本稿の主たる研究関心でもある農業技術普及の制度形成において、構成員同士の関係性・ネットワーク、それぞれの性格特性が重要な要素になりうることが理解できた。また、農業新技術(PAPRIZ)導入のインパクト評価を単に農業の生産性指標によって計測するのではなく、家計厚生の指標として多次元貧困や脆弱性などを用いて、PAPRIZ導入の効果を計測した。分析結果からはこうした貧困指標に関してもPAPRIZの導入は正の効果を持ち、農業生産の向上のみならず、世帯の厚生をも改善させうることも明らかになっている。更には、マダガスカル農村における子どもの健康や教育に両親の性格特性がどのような影響を及ぼすのかをジェンダーの視点も織り交ぜつつ議論した。これら以外にも複数の論文を執筆中であり、こうした状況からも研究の進捗状況は概ね良好なものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
論文執筆は順調に行えていたが、2020年度に予定していたフォローアップ調査が実施できなかったため、2021年度は可能であればこうした調査を実施できるよう検討を続けている。現在においても現地との連絡をコンスタントに取り続けており、継続して行ってきた調査体制・実験状況の保持を行っている。また、執筆した論文についてはジャーナルへ投稿するだけではなく、マダガスカルの農村経済をまとめた書籍として刊行することも検討している。更には、研究期間終了後も継続して対象となった農村や技術普及員の調査を行い、中長期的な農村技術普及の制度形成・変化を把握していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響により2020年度に予定していた調査が実施できなかったため。2021年度に調査の実施が可能になれば、調査にかかる旅費、物品費用、謝金として使用する予定。
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