本研究では、マダガスカルにおける稲作技術(PAPRIZ)普及のための住民組織形成と社会ネットワークの構築という具体的な制度形成のプロセスについて、近年盛んに行われるようになった社会実験の手法を導入した分析を行っている。具体的には、化学肥料と農法を記したガイドブックが同封された新技術導入パックをマダガスカルの複数の村内で配布する実験になるが、制度形成のプロセスが異なる配布方法を複数用意し、どのタイプの配布方法でもっとも効率よく技術の普及が行われるか、並びに稲作の生産性が向上するのかを観察するものである。現地で農業技術の普及を行っている団体(PAPRIZ)との共同研究として行うことで、学術的な価値だけではなく、政策論としての貢献も極めて高い研究となっている。 コロナウイルスの影響により2020年度に引き続き、2021年度中の調査を行うことができず、収集したデータの整備や論文の執筆に多くの時間を割いた年度となった。こうした論文を報告する機会もコロナウイルスの影響もあり限られていたが、2021年度には2020年度に行ったマダガスカル研究懇談会での報告をまとめた論考を出版し、複数の論考を投稿する準備が整っている。また、2022年度以降に、中断している社会実験をマダガスカル農業省やJICA、PAPRIZ事務所などとの共同で行う議論も始まった。より具体的には、これまでは調査対象とならなかった地域も含めて、近代農業技術普及のための農民組織形成と社会ネットワークの構築という視点に加えて、技術普及員の効果的なトレーニングと米のバリューチェーン構築という新たな視点を盛り込んだ具体的な制度形成のプロセスについて、研究を始めることとなる。
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