研究課題/領域番号 |
18K05859
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
櫻井 清一 千葉大学, 大学院園芸学研究院, 教授 (60334174)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 農村多角化 / 生活の質 / ローカル・フードシステム / 農産物直売 |
研究実績の概要 |
本年度は,日本の農産物直売所の出荷者を対象とした出荷及び関連行動調査データに基づく分析と,台湾の日本式農産物直売所およびファーマーズ・マーケット出荷者を対象とした出荷満足度調査データに基づく分析を行った。 1)群馬県の直売所出荷者に対し2020年度に実施した出荷行動調査データをもとに,直売所への出荷に向けた態度形成要因を因子分析により明らかにした。販売力,機動的出荷力,品揃え力の3要因が出荷への態度を形成していた。出荷者の因子スコアをもとにクラスター分析を実施し,出荷者を積極型,消極型,販売重視型,生産重視型の4類型に分類した。このうち積極型および販売重視型に属する農家は,2年前と比べ出荷実績に対する自己評価が高かった。ただし,健康QOL指標については,類型間に大きな差はなかった。また出荷者の高齢化の影響により,健康QOLの数値自体が低かった。 2)台湾の日本式直売所およびファーマーズ・マーケット出荷者を対象にした意識・行動調査(2019年実施)データを再集計し,出荷に対する総合的満足度がいかなる要因により形成されるかを分析した。出荷先への距離が小さい出荷者に加え,出荷を継続することにより心理的満足度が向上したと回答する出荷者が総合的な出荷満足度も高い傾向にあった。 3)その他,学会の依頼を受け,本研究課題に関連する日本のローカル・フードシステムの概況を2000年以降の20年間について取りまとめ,今後の研究テーマとして,消費者がローカルと認識する領域の主観性をふまえた分析枠組づくりを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定研究期間を1年間延長し,その間にこれまで調査・収集済みであったA直売所出荷農家の行動に関するデータの分析は進展した。ただし,対面による調査を延期せざるを得なかったB直売所については,コロナウィルス流行が収束せず,断念することとなった。 台湾の日本式直売所およびファーマーズマーケットを対象とした分析も,追加調査は実施できなかったが,直売所出荷農家の満足度を分析するための代理指標を用意し,ある程度は進展させることができた。 また,農業市場学会より依頼を受け,ローカル・フードシステムの現状整理を行うことができ,本課題をとりまとめるうえでも参考になる知見を得ることができた。 以上より,進展した課題,進展しなかった課題それぞれあるが,全体としては一定の進展をみることができたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウィルス流行のため,農産物直売所出荷者を対象とした調査の一部を断念したため,調査を実施できた直売所の部分的データにより残りの解析を続けるしかない。選択する分析手法を変更した上で,直売所をはじめとする農村経済多角化に取り組む生産者の行動分析の特徴と,多角化行動が最終的に生産者の主観的満足度を向上させているかについて分析を行う。 また,直売所分析においては,出荷者の健康関連QOL指標に着目し,様々な視点から出荷者の類型化したうえで,類型別の健康QOL水準の違いを考察する。 最後に,海外渡航が可能になってきたことから,これまでの成果を海外の学会(2022月7月開催の国際農村社会学会:オーストラリアを予定)で発表する。 なお,上記の研究を遂行するため,令和4年度への再延長が認められている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍により国内外とも対面式の調査を行うことができなかったため,旅費を使用する機会がなく,残額が多く発生した。派生して,調査データを入力するための人件費(データ入力社への謝金)も少額となった。 また,本研究は令和4年度までの再延長が認められた。延期された国内外調査と国際学会発表のため,令和4年度は旅費を多く使用する予定であり,問題なく予算執行できると考える。
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