本研究は、被災農村地域の生活者がいかに生業―生活の再構築を図り、村の社会的共同生活を再生させているのかを、問題解決活動(「問題状況の共有」および「意思決定の協働」)に注目することによって明らかにしてきた。研究の最終年度にあたる2023年度は、新型コロナウィルス感染症の蔓延防止の対策により大幅に修正した研究計画を遂行し、総括することに力を注いだ。 特に、福島第一原子力発電所事故によって棄損された生活の再構築にあたり、問題の解決を共発的に取り組んだ、福井県の一地区の事例に注目し考察を行った。当該地区は、敦賀原子力発電所から30キロ圏に位置し、人口減少・過疎化が加速度的に進行している。地区では、2011年の事故直後から村ぐるみで被災者支援を行い、住民たちは支援活動を通じて自らが居住する地域の維持・再生の重要性を再認識するに至った。被災者の「ふるさと」の取り戻しを我が事として捉え返し、自他の「ふるさと」再生を共発的に取り組む。本研究では、その過程を追跡し、事例が持つ社会的意味を明らかにした。その成果は「山村で子どもを扶ける―福井県福井市殿下地区における被災者支援活動と村づくり―」Trans/actions 第7号(名古屋工業大学産業文化研究会)にまとめることができた。 さらに、本研究を通じて、被災農村において構造化されている差別問題の解決の重要性について再認識し、各地の実践活動の事例を収集した。そのなかでユニークな接近方法(「3人よれば文殊の知恵型」)で解決を試みようとする、岩手県陸前高田市の農家女性の取り組みを追跡した。この考察を通じて、本研究で残された課題を析出することができた。
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