研究課題
本研究の最終年度に当たる本年度は、コロナ禍のため、海外渡航や国内の現地調査を控えざるを得ない状況となり、予定していた台湾の現地調査を取りやめた。また、日本のCSAの主導的存在である神奈川県の「なないろ畑農場」の主宰者であり、本研究のキーパーソンでもあった片柳義春氏の急逝という事態により、当初予定された調査が数件、実施不可能となったため、それらに替えて文献・資料調査を充実させ、同時に研究者・実践者との議論を深めることとした。そのためには、研究代表者の企画書籍である、片柳義春『消費者も育つ農場~CSAなないろ畑の取り組み』創森社、2017.をテキストとし議論のベースを共有した。以上の結果、台湾に関しては、近刊論文情報およびその著者を含む研究者との情報交換を行い、文献・資料調査については関連書籍だけでなく、実践団体から収集した資料集・小冊子などの原資料から得られた知見と研究者・実践者との議論によって最終的な研究のとりまとめに貢献する成果を得られた。研究課題の一つである日本におけるオーガニックの停滞要因については、各国での価格調査、GDPの比較などの結果から、一般に指摘される慣行農産物との価格差、購買力不足といった市場環境要因を採用するには無理がある。一方で、有機農業の普及が進む国々では、ローカルフード運動を背景に、市場を介さないCSAが急速に伸展している。つまり、有機農業は市場条件よりも地域との関わりの中で普及が進むことが示されている。したがって、もう一つの研究課題であるCSAと地域の関りから、有機農産物をローカルフードとして捉えるにはCSAを単なる地縁組織としてではなく、テーマコミュニティとして再定義する必要がある。このことから、本研究の「CSAと地域との関わり」を明らかにし、CSAの展開可能性を考察するという課題の社会的意義が再帰的に示されることとなった。
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