研究課題/領域番号 |
18K05876
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
中島 正裕 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80436675)
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研究分担者 |
角道 弘文 香川大学, 創造工学部, 教授 (30253256)
廣瀬 裕一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 西日本農業研究センター, 上級研究員 (40399366)
皆川 明子 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (70603968)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 批判的継承 / 農業水利環境ストック / 世代交代 |
研究実績の概要 |
批判的継承による農業水利環境ストックの維持管理システムの構築に向けて、2019年度は滋賀県甲良町を対象にA.意識調査、B.行事診断、C.親水利用調査、D.流量観測、E.環境心理評価を遂行した。 A.13集落の第二世代(30~50歳代のPTA等の役員経験者40人)を対象に、昨年度(第一世代)と同様のヒアリング調査(21項目)を実施した。両年度の結果より、維持管理の継承には「利用」「維持管理」「愛着」への評価の高まりが重要であることが明らかとなった。今後、「重要度」との関係性も含めて要素間の構造的関係性を仮説モデル構築により実証的に解明する。 B.行事継続が困難である4集落を対象に、行事の特性分析と行事の継承に対する第二世代の意識解明を行った。それらの結果より、行事の機能診断のための評価指標の提案、及び行事再編に資する住民の意思決定支援を方法論的観点から考察した。 C.金屋・北落・尼子集落を対象に、GISを用いて「水遊び場」と「子どもの家との位置」の関係を分析した。また、“農業用水路で親水利用がみられる背景には親世代の経験や理解も影響する”という仮説のもと、東西用水(倉敷市)の近隣住民を対象としたアンケート調査を実施した(分析中)。 D.北落・尼子集落を対象に、集落下流の圃場の用排水路で流量観測と水収支を算出した。北落集落では、集落営農組合が作業時期の分散を図ることで水需要が平準化され、水不足が緩和されていた。尼子集落では、パイプラインからの吐出量は転作田の面積を考慮して各集落の受益面積に応じて調整されており、下流では上流集落の余水により用水が潤沢であった。 E.金屋・北落・尼子集落を対象に、水路の選好性の評価構造及び維持管理活動への参加理由を尋ねるアンケート調査を実施した(分析中)。選好性には「水のきれいさ」や「管理状況」に対する評価が影響する、維持管理活動に肯定的な人ほど子どもの遊び場としても関心がある傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「批判的継承」を念頭においた協議の場として、3月に座談会(第一世代、第二世代で各々実施予定)と意見交換会(役場担当課)を予定していたが、新型コロナウィルスの影響により延期となった。しかし、これ以外については、研究代表者・研究分担者ともに概ね予定通り研究(第二世代への意識調査、親水利用調査、用排水路の流量観測、環境心理評価)を遂行できた。また、当初計画では予定していなかった、集落行事の機能診断のための評価指標の提案、及び集落行事の再編に資する住民の意思決定支援を方法論的観点から検討することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の遂行にあたり、アクションデザイン・リサーチ(【評価】【介入】【構築】)を取り入れてきた。これにより、2年間は農業水利環境ストックの利用・管理システムを多角的(空間、意識、行動)に【評価】してきた。最終年度となる次年度は、これらの研究成果に基づいた実践的課題を提示し、その解決に向けた住民の主体的行動(組織や活動の再編・創設など)を促すための【介入】を社会実験により行う。実践的課題は「農業水利環境ストックの価値(子どもの情操教育と心理的癒しの効果)の再認識」、「第2世代の“継承”に対する動機付け」、「集落内行事の持続性の診断」、「集落間の連携による維持管理作業の軽減」などが想定される。これらの課題解決に実践的に取り組むことで、「批判的継承」による農業水利環境ストックの利用・管理システムの【構築】を目指す。なお、【評価】に関しては、次年度も引き続き以下のA~Eを実施する。 A.他出子に対して農業水利環境ストックと集落行事に関するアンケート調査を実施する。 B.農業水利環境ストックと集落行事に対する継承の“負担感”を、物理的負担と心理的負担から分析して総合的な診断手法を構築する。 C.東西用水(倉敷市)で実施した農業用水の親水利用に関するアンケート調査(子ども世代、親世代)を甲良町でも実施し、それらの比較分析することで敷衍できる論理の析出を行う。 D.転作田のブロックローテーションが2020年度から変わるため、引き続き北落を対象として異なる転作田の配置に対し、適切な流量配分を行うための方策を明らかにする。 E.2019年度に実施した、水路の選好性の評価構造及び維持管理活動への参加理由を尋ねるアンケート結果(金屋・北落・尼子集落)を定量的に分析して、水路の選好性を決定する要因、水路の維持管理活動に参加する意志を持つ人の特徴を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「批判的継承」を念頭においた協議の場として予定していた、3月の座談会(第一世代、第二世代で各々実施予定)と役場担当課との意見交換会が、新型コロナウィルスの影響により延期となった。これに伴い、計上していた旅費、データ入力整理や座談会スタッフの人件費も未消化となった。 甲良町役場の担当課と相談(参加者の安全性確保)しながら、上記予定していた座談会と意見交換会を実施する予定である。
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