研究課題/領域番号 |
18K05879
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
近森 秀高 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (40217229)
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研究分担者 |
工藤 亮治 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (40600804)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地域頻度解析 / 極値 / 経年変化 |
研究実績の概要 |
本年度は,西日本地区を対象として,各観測点における確率日雨量の経年変化の傾向を,年最大値法と閾値超過法(POT法)を用いた地点頻度解析により調べた。また,確率日雨量の変動傾向が類似した複数の観測地点における雨量データに地域頻度解析の手法を適用し,経年変化の傾向別にその特性を調べた。得られた結果は以下のようである。 (1)年最大値を対象とする年最大値法と閾値超過値を対象とするPOT法では,確率日雨量の推定値に大きな差は見られなかった。100年確率日雨量の経年変化の傾向は,増減型,減少型および増加型の3つに大別され,主に,増減型は九州北部および近畿などの東海道および山陽新幹線沿線地域,減少型は日本海周辺を含む山陰地域,増加型は瀬戸内地域にそれぞれ位置していた。 (2)地点頻度解析によって明らかになった経年変化の各傾向型別に雨量観測点を分類し,それぞれの傾向型別に頻度解析を行う手法により西日本地域における確率日雨量の経年変化特性を検討した結果,各地点と各地域のデータ量を考慮してある程度の精度が期待できる1970年頃以降に着目すると,100年確率日雨量が減少する傾向を示す地点が多いことが分かった。 (3)確率日雨量の経年変化の傾向型別に分類した各グループに地域頻度解析を適用し,傾向型別に確率日雨量の経年変化傾向を示した。 (4)将来の気候予測では,洪水や干ばつといった極端現象の増加が予測されており,近年でも,2018年の西日本豪雨や2019年の台風19号による関東甲信・東北地方での大雨のような大規模な水害が立て続けに発生しているが,本年度の検討結果からは,少なくとも西日本地域では確率日雨量が減少傾向を示す地点が多いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,主な実施計画として,i)「外れ値」の統計的評価法の見直し,ii) 地域頻度解析法の併用とその有用性の検討,iii)降雨特性の将来変化予測への適用,の3項目を挙げ,一昨年度(2018年度)の検討では,外れ値の統計的評価に地域頻度解析の適用が有用であることが示された。 昨年度(2019年度)は,主にii)の地域頻度解析の手法を用いて,西日本地区を中心として,過去100年程度の期間の確率日雨量の経年変化を評価した。ここでは,地点頻度解析によって明らかになった各地点における確率日雨量の経年変化の傾向に着目して,観測地点をその地点間の距離を考慮せずにグループ化し,各グループを1地域とみなして解析を行った。この解析で実施した経年変化の検討は,iii)外挿による降雨特性の将来変化予測を念頭に置いたものである。この検討での地域頻度解析の適用は,雨量観測点の地理的な距離をあまり考慮せずに,確率日雨量の経年変化の傾向が類似した地点をまとめたグループを「地域」として頻度分析を行っており,近隣の地点をグループ化して地域とした本来の手法とは異なっている。 前述のとおり,得られた経年変化のパターンは,増減型,増加型,減少型に分類された。一方,一般に公表されている気候変動の予測では,豪雨や出水の規模が次第に大きくなるとされており,昨年度得られた結果は,近年の異常気象やこれに伴う大規模な水害発生の現況を反映しているとは言い難いが,これは,改めて現況を見直すための手掛かりとも言え,本研究の成果の一つと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(2019年度)の検討結果では,前述のように,確率日雨量の経年変動の傾向が地点によって異なっており,近年の異常気象の状況を反映しているとは言い難かった。 このことを踏まえ,最終年度である本年度(2020年度)は,年最大日雨量の分布の経年変化の傾向を,時変型のパラメータを持つ確率分布の適応により調べる。ここでは,ベイズ統計理論に基づいて開発されたマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)を適用する。この方法では,適応する確率分布のパラメータを1次式または2次式で表される時変定数として表すことができ,この検討により,降雨特性の経年変化の傾向が捉えられるものと期待される。 また,昨年度は,各地点の経年変化傾向の分類に,各地点における確率日雨量を用いたが,本年度は,併せて,地域頻度分析で地域分類に利用されるL積率を用いる。本年度の検討ではL積率は各地点で1年ごとに求められるので,得られたL積率を各地点でまとめてベクトルとして扱い,これらをクラスター分析などで分類することが考えられる。 このようにして検討した確率日雨量の経年的変動の傾向と,各地点または地域における豪雨・洪水災害時のデータとの対応を調べることにより,近年の豪雨時の雨量の時空間分布と水害規模との関連を検討することができる。 なお,本年度は本研究課題の最終年度であることから,本年度に予定している上記の検討結果と,2018年度および2019年度に得られた結果をまとめ,研究の総括を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年11月21日および22日の両日,国立台湾大学のKe-Sheng Cheng教授の主催で,2019 International Symposium on Stochastic Environment and Water Resources (ISEWR 2019) と題するシンポジウムが開催され,”Frequency analysis of heavy rain events in western Japan based on the compound Poisson model considering their causes” (豪雨の発生要因を考慮した複合ポアソンモデルに基づく西日本における豪雨の頻度解析)と題する発表を行った。この発表内容が豪雨の統計解析に関わるものであり,本科学研究費の課題にふさわしい内容であったため,渡航費用を当科研費から支弁する予定であったが,昨年度は,先方が全面的に負担してくれたため,科学研究費から支出することがなく,結果的に,次年度使用額が生じた。 この使用額については,本年度に実施するデータ整理,資料の取りまとめ等で必要となる消耗品費に充当する。また,国内外の学会,シンポジウム等への参加機会が得られた場合は,必要に応じて旅費の充当に使用する。
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