強風時に海上に巻き上げられた海塩粒子が陸域に輸送される過程について,これまでに構築した風況予測モデルと気層中の物質輸送を再現したシミュレーションモデルの精度向上を図った.潮風害が発生した地域において現地調査を行い,農地の作物の被害状況,被害農地と海域の距離および風況をはじめとする気象要素の時間変化などの基礎的なデータを収集した.現地の状況をスケールダウンして再現した風洞実験を行ってシミュレーションモデルの精度を確認し,潮風による空気中の海塩粒子の輸送距離や農地の作物体への付着量を推定した.また,潮風害が発生した地域で講じられている潮風害対策を調査した結果,灌漑によって作物体に付着した塩分を除去する手法が主流であることが明らかとなった.この対策を用いた場合,作物体に付着した塩分が土壌面に洗い流されるため,農地の生産性に影響を及ぼすことが示唆された.過去に潮風害が発生した沿岸部の農地において現地調査を行い,土壌中の物質移動について明らかにするとともに,潮風害防止目的の灌漑の量やタイミングについてデータを収集した.さらに,農地の土壌中における塩分をはじめとする物質移動現象を解明するシミュレーションモデルを構築し,潮風害に暴露された農地の作物体-土壌の連続体における塩分の動態を予測した.現地調査の結果を用いてシミュレーションモデルの再現性を確認した.さらに,シミュレーションモデルを用いてシナリオ分析を行い,潮風害を効果的に抑止するための灌漑スケジューリングを求めた.
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