研究課題/領域番号 |
18K05885
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
濱 武英 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 准教授 (30512008)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リン / 地下浸透 / 水田土壌 / 吸着 / 地下水 / 塩水浸入 |
研究実績の概要 |
調査地を計画当初の八代平野から玉名平野に変更した。今年度は,現地調査地区の水文状況を把握するため排水路10ヶ所に水位計と電気伝導度計を設置し,観測を継続している。また,熊本県庁および玉名市役所の協力により,調査地区内に存在する井戸の水を週1回の間隔で採水・保管し,その水質を大学にて分析している。調査期間は数ヶ月であり,現地観測データはまだ十分とは言えないが,これまでの観測結果から低平地は有明海に隣接するため,排水路の塩分濃度が高く,それらは潮汐に影響されることが示唆された。また,かんがい期間になると,排水中の塩分濃度および電気伝導度が低下することが確認された。これは,かんが用水(菊池川)の余剰分が排水路に流入し,排水の塩分濃度を希釈するためと考えられる。一方で,地下水質は,リン濃度が高いものの,経時変化は少なく安定していた。実験室では,カラムを用いた通水型のリン吸着試験システムを確立した。黒ボク土壌を用いた通水試験では,短期間(比較的反応の速い現象)のリンの吸着は,水溶性画分や鉄結合性画分にみられ,一方で,長期間のリン吸着量は,アルミニウム結合性画分が左右することが示唆された。上述した水・物質動態の現地スケールの数値モデルとは別に,土壌カラムスケールでリン動態を再現する数値モデルの作成を行い,吸着が平衡に達した状況については数値モデルによって再現することができた。これらの知見の一部は,学会発表や論文等で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初は,以前の水文観測体制を継続して利用するために八代平野を調査地とする予定であったが,現地の事情により機器の消耗・破損が早い可能性があったため,調査地を変更した。そのため,初めは調査地の選定および関係機関との調整に時間を要した。その後,熊本県の協力により,調査地として玉名平野を選定することができた。また,玉名市の協力により,調査地区を網羅するように排水路10ヶ所に水文観測機器を設置することができた。機器設置後は大きなトラブルも無く,順調に観測を継続している。また,週に1度の頻度で地下水の採水と月に1度の頻度で排水路の採水を行っており,低平地の水質データを蓄積している。また,地上と地下の水および物質の流動を表現する数値モデルの作成に取組み,水の移動については2次元モデルまで作成した。一方,実験室では,農地土壌を用いた通水型のリン吸着試験の実施方法を確立した。現在は,土壌内部の構造を把握するため,試験カラムの改良を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,排水路計等の水文観測機器による観測データおよび採水・化学分析による水質データの蓄積を引き続き進める。また,現地踏査や衛星画像解析によって調査地区内の土地利用の把握を行うとともに,水田やビニールハウスの土壌を採取し,土壌に含まれる栄養塩類等を調査する。さらに,現地にて地形測量を行い,多点で観測している排水路の水位データを整合させる。これらの観測データをもとに,現地の水と物質(とくにリン)の動態を表現できるように作成中の数値モデルの改良を行う。地中を流れるリンの動態に対する土壌構造の影響を明らかにするため,X線CTによる土壌構造の把握を行う。また,リン吸着における土壌表面の金属の影響を物理化学パラメータ別に把握するため,農地土壌に含まれる金属の連続抽出を試みる。
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