研究課題
昨年度に引き続き,熊本県玉名平野を現地調査地とした。玉名平野は有明海に隣接する低平地水田地区である。昨年度に地区を縦横に走る排水路10ヶ所に水位計と電気伝導度計を設置しており,今年度も連続観測を継続している。同地点では月1回の頻度で現地観測を行い,水質を分析した。また,調査地区内2カ所で週1回地下水を採水し,水質を分析した。これまでの観測結果から,調査地区は陸地から海に向かって約4 kmの低平地であるが,表層の降雨応答と水質から上流,中流,下流に大別される。潮汐の影響による排水路の塩分濃度の上昇は沿岸から2 km以内の中下流部に見られた。昨年同様,かんがい期間には,かんがい用水の流入により排水中の塩分濃度の低下が確認された。また,浅層の地下水において高いリン濃度が確認された。カラムを用いた通水型のリン吸着試験を実施した。長期間の吸着実験では2段階吸着を確認した。土壌へのリン吸着量は通水速度に依存し,低流速では上流部の土壌へのリンの蓄積がみられた。一方で,高流速ではリンはカラムに均一に広がることが確認された。カラム土壌内のリンの遍在はアルミニウム結合画分が関わることが示唆された。吸着が平衡に達した状況については数値モデルによって再現することができた。また,鉄結合性やアルミニウム結合性など画分ごとに異なる吸脱着特性を考慮して移動を再現する数値モデルの初歩的なモデルを作成した。これらの知見の一部は,学会発表や論文等で公表した。
2: おおむね順調に進展している
計画の予定通り,昨年度選定した玉名平野において,排水や地下水の現地観測を実施し,排水路計等の水文観測機器による観測データおよび採水・化学分析による水質データを蓄積することができた。ただし,一部の水位計,電気伝導度計の故障により,データの欠損があった。地上と地下の水および物質の流動を表現する数値モデルの作成に取組み,水の移動については2次元モデルまで作成した。現地観測結果を基に,モデルパラメータの調整を行い,比較的反応性の低い塩分の移動については精度良く再現することができている。一方,実験室では,昨年度確立した農地土壌を用いた通水型のリン吸着試験を実施した。実験結果をもとに土壌カラム内のリン移動を再現するモデルを開発中である。また,土壌内部の構造を把握するため,試験カラムの改良を随時行っている。
今年度は,コロナウィルス感染拡大を受けて現地調査ができない状態にあるため,現地調査による水質データの蓄積は行わず,これまでの観測データを基に解析を進める。コロナ禍収束後に現地踏査や衛星画像解析によって調査地区内の土地利用の把握を行うとともに,水田やビニールハウスの土壌を採取し,土壌に含まれる栄養塩類等を調査する。カラム実験を引き続き実施し,浸透速度とリンの吸着の関係について計測データの蓄積を図る。また,これまで飽和条件による通水試験を実施してきたが,現地の自然条件(水の浸透状況)を考慮し,不飽和状態でのリンの通水・吸着実験を実施する。特に,土壌カラム内のリンの遍在に対する土壌構造と酸化還元電位の影響に着目して,通水実験を進める。なお,土壌構造はX線CTにより把握する。また,沿岸低平地での地下水中のリン移動を評価するため,塩分がリン吸着に与える影響を調べる。最終的には,カラムスケールで再現したリン移動を農地地区スケールのモデルに組み込み,低平地水田地区での地下水中のリンの移動を明らかにする。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Journal of Water and Environment Technology
巻: 18 ページ: 37~44
10.2965/jwet.19-068
Journal of Water and Climate Change
巻: - ページ: -
10.2166/wcc.2019.045