研究課題/領域番号 |
18K05896
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
庄野 浩資 岩手大学, 農学部, 准教授 (90235721)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インピーダンス特性 / 光合成 / 植物の環境応答 / 水ストレス / 温度ストレス |
研究実績の概要 |
植物のインピーダンス特性は農産物の鮮度等の指標としての利用例があるが,通常の生育環境下における同特性の実態を測定した例は少ない。本研究では,同特性と光合成との関係性を検討・解析し,最終的に光合成産物の蓄積状況の定量測定の可能性を追求する。しかしそのためにはまず,水と温度環境を代表とする外部生育環境が,インピーダンス特性にどの様な影響を外乱として与えるかを明らかにしなければならない。そこで本年度は,まず初めに水と温度環境に注目し,それらが同特性に具体的に与える影響を検討した。さらに,両者の影響を排除しつつ光合成とインピーダンス特性との関係を測定する実験装置系や,事後の膨大なデータを効率的に解析する環境を構築した。さらに,組み上げた実験系を用いて,水と温度による影響を極力排除しつつ,光合成とインピーダンス特性との関係を検討した。 水環境のインピーダンス特性への影響に関しては,サンプルに水ストレスを負荷した結果,RWC(相対含水率)の減少につれてCole-Coleプロットが相似的に縮小した。結果にはばらつきがあるものの,水環境が同特性に一定の影響を与えることが分かった。一方,温度環境に関しては,少なくとも植物の通常の生育温度内においては同特性への有意な影響は確認できなかった。 光合成とインピーダンス特性との関係に関しては,12時間連続で光合成をさせた場合,同徳性が有意に増加する一方,12時間連続暗期では有意に減少することを確認した。また,分単位の光照射において,明期および暗期の繰り返しに同特性が一定の傾向で反応する現象を新たに発見した。前者の結果は,同特性が光合成産物の蓄積と減少を反映することを示唆するものである。また後者の結果は,同特性が電子伝達系等の光合成系内の種々の反応状況を反映する可能性を示唆しており,同特性による光合成活性の測定等の可能性を示唆するものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物の光合成の実施状況をインピーダンス特性を通じて測定するためには,様々な外乱がどの程度影響するのかをあらかじめ知っておかねければならない。これは,まず外乱が与える影響がわからなければ,実際にインピーダンス特性を測定してもそれが光合成の進行を示すものかどうかを判別できないからである。そこでまず本年度においては,水と温度環境という代表的な環境変動と同特性との関係について明らかにした。このため,インピーダンス特性の推移から光合成の進行状況を抽出することがある程度可能と見込める状況となった。 以上の結果は,最終的な目的を達成するためには必須の知見であり,これらの知見の確保は,本研究が最終的な目的に対して順調に進んでいることを十分示唆するものである。これらの結果を評価した結果,「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験において,短時間の光照射にインピーダンス特性が敏感に反応する現象が初めて確認された。光合成産物の蓄積が高インピーダンス物質を生成して同特性を増加させることはまず確実と考えられるが,短時間の光照射によって同特性が逆に減少する状況ははじめて観察された現象である。この現象は,光合成産物の蓄積だけでは十分な説明が困難と思われる。 そこで,次年度においては,光合成活性測定装置を用いて,明期と暗期の時間比を様々に設定するなど,光の照射条件を多様に変更して実験を行うなどの工夫により,同特性と光合成系との関係性について詳細な検討を加え,短時間の光照射がインピーダンスを減少させる原因を探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画立案時には,従来から使用していたインピーダンス特性測定装置を,さらに高精度な新機種に更新する予定であったが,当該装置を精査して試験的に実験に使用した結果,現状の性能でも求めるレベルをある程度満足しており,現状では新機種に更新する必要がないと判断した。このため,更新のために充てていた予算が支出不必要となった。また,研究に必要な光合成活性測定装置や人工気象器などの周辺の機材についても,現在使用中の既存の装置を継続して利用する実験環境を整えることができたため,予定していた支出の一部が不必要となった。以上の理由により,予算の一部に支出しなかった部分が生じ,次年度使用額が発生することとなった。 インピーダンス特性の実験データは,項目数が周波数区分の数だけ極めて多数存在し,それを時系列データとして蓄積すると,解析の対象となるデータ量が極めて膨大となる。このため次年度使用額は,膨大な実験データの解析環境のさらなる改善費用として,ワークステーション等の計算能力とストレージ容量の向上のために,さらにはその他の実験設備の改善のために使用する予定である。
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