研究課題/領域番号 |
18K05899
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
古在 豊樹 千葉大学, 環境健康フィールド科学センター, 名誉教授 (90081570)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人工光型植物工場 / 環境制御 / 植物形質計測 / フェノタイピング / 環境・植物形質モデル / 生産最適化 / 資源利用効率 |
研究実績の概要 |
本研究では、人工光型植物工場(以下、植物工場)における生産目標値(収量、特質(traits)、収穫時期など)を所与の条件(栽培面積、生産コスト上限値、環境制御性能など)下で実現するための制御環境要因の設定値のセットを最小費用で実現する環境制御方法を開発することを最終的な目的としている。まず、実在する植物工場の栽培モジュールを利用して、光合成、蒸散およびミトコンドリア呼吸の速度および電気、水、CO2等の消費速度を連続計測した結果を用いて、申請者が計算方法を開発した資源利用効率を算定した。また、上記の栽培モジュールにおいて栽培中の植物体の葉面積、生体重、植物成分(クロロフィル濃度など)を比較的安価な機器(各種のカメラなど)を用いて非破壊的に一定間隔で計測し、それら計測値を光合成、蒸散およびミトコンドリア呼吸の速度の計測値と関連付けることを試みた。 さらに、現在、環境要因が植物の特質に及ぼす影響を、生理生態学的決定論的モデル、多変量統計モデル、行動モデル、人工知能 (deep learning法等)モデルで予測する方策を検討中である。加えて、4種モデルの中の最適なモデルおよび計測データセットを用いて環境設定値セットを定める方法論を検討した。また、植物形質の特性を連続的に計測する手法が予定通りには進まなかったので、その手法の改良を検討中である。上記の研究成果は、学術図書、国際学会講演、学術雑誌、専門商業雑誌などで公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究進捗状況は以下のとおりであり、研究はおおむね順調に進展している。①設置されている4段の栽培棚を有する栽培モジュールの各種センサーと環境制御機器が正常に動作することを前年度に確認した栽培モジュールを用いて、生育時期がほぼそろった複数の苗を栽培棚上の栽培ベッドに定植し、その苗の成長過程に伴なう植物の3次元形態の時系列的計測を実施した。②上記形態計測データと環境計測データおよび物質・エネルギー収支式を利用して、光合成、呼吸および蒸散に関する数式モデルのパラメータ値を半自動的に求める方法について検討を開始した。③2019年度にほぼ開発された植物特質計測用のphenotypingユニットを用いてのデータ取得と人手計測で得られたデータの比較に基づいて、葉面積、生体重、草丈、クロロフィル濃度などの推定を試みている。④各環境要因の計測値は平均値と分散だけではなく、その空間・時間分布と植物特質の空間・時間分布とに関連するので、それら要因の分布もある程度計測した。⑤環境計測データを入力として、光合成・呼吸・蒸散および葉面積、生体重、草丈を出力とする、(1)エネルギー物質収支モデル、(2)多変量統計モデル、(3)人工知能モデルの長所と短所を検討した。⑥これらの検討事項の一部は、2018年末にSpringer社から発刊されたSmart Plant Factory(Editor, T. Kozai) に掲載されたが、その後に研究成果を引き続き公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に引き続き、以下の時系列データの収集を行ない、それらデータを用いた解析を行なう。本研究の申請書に書かれた方法論の手順に基づいて、環境制御設定値に基づく環境制御を行ない、植物の諸形質(葉面積、生体重、草丈、クロロフィル濃度、光合成および蒸散など)を計測する。環境制御設定値の決定に際しては、資源消費量、コストなどを考慮し、また予測される植物成長量と生産価値から栽培モジュールの生産性を各資源に関して算定する。上記により、環境制御設定値の決定に関する妥当性と資源生産性・金額換算生産性が次第に向上すると考えられる。 各種子の発芽および発芽後の植物個体の成長は、①種子の遺伝的性質、②播種前の種子処理(プライミング、コーティングの有無など)の方法、③播種の方法(手播き、自動播種など)、④播種密度、⑤培地の微細環境(含水率、温度など)、⑥隣接植物体との相互干渉(物理的接触、相互被陰など、およびそれらに伴う微細環境変化)に影響されるが、これら要因が各植物体の植物特性に及ぼす影響の解析方法を前年度に引き続いて検討し、学術論文としてまとめて、投稿する予定である。他方、申請者だけでは収集および解析できないデータ、および計測できない要因(植物に含まれる化学成分など)については、データ提供と共同研究を実施する方向で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には、2019年度(2020年3月)にタイ国・バンコックで開催される国際シンポジウムに参加するための費用を24万円計上していたが、新型コロナウイルス感染問題により、2020年12月に延期になったので、予算計上した旅費24万円が未使用になった。この予算は2020年12月に上記国際国際シンポジウム参加などのために使用する予定である。
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