研究課題/領域番号 |
18K05903
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
谷野 章 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (70292670)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 温室 / 遮光 / 再生可能エネルギー / 太陽光発電 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
温室栽培の環境制御で消費される地下資源由来のエネルギーを減じて、再生可能エネルギーの割合を増やし、尚且つ作物の収量と品質を向上させることを大きな目的としている。そのために、温室が存在する場所で得られる太陽光エネルギーを太陽電池で電力に変換し、その電力で温室の環境制御設備を運転する独立電源システムを開発している。 研究期間内では、多日照地域において、強すぎる日射による葉焼けなどの作物へのダメージを回避するために施される温室の遮光を、シースルー太陽電池製のブラインドシステムで実現するための研究を実施している。そのブラインドシステムは、システムの自己消費を賄うための十分な量の電気エネルギーを生産しつつ、日射強度に応じて遮光率を自律的に変化させることができる。天候や季節に応じた自律的な光強度管理によって、作物の生育と品質を向上させることを目指している。 試作中のプロトタイプブラインドシステムをガラス温室に装着して試験した。屋外の日射強度が閾値(0.5 kW m-2)を超えると、モーターがシースルー太陽電池ブラインドを温室屋根面と平行位置まで回転させて、30%程度遮光しつつ発電した。屋外の日射強度が低下し、閾値を下回ると、モーターが反転して、屋根面と垂直の角度でブラインドを停止させて温室内への日射の取り込み量を増やした。この動作を日射強度に応じて自律的に繰り返させることができた。ブラインド回転の日射閾値を500、700、900 W m-2とすれば、温室内に届く日射エネルギーは、それぞれ屋外の59、65、73%となることが見積もられた。 温室におけるプロトタイプの実証実験の経過を学術誌で発表した。その後もブラインドの自律運転を継続させている。さらに、本研究の背景を整理した結果を取り纏めて総説として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温室の屋根で機能させることを目指し、多数の微粒子状単結晶太陽電池を疎らに埋め込んだシースルー太陽電池をブラインド材とする遮光制御システムを開発している。そのブラインドシステムは、独立電源とするために十分な量の電気エネルギーを生産しつつ、日射強度に応じて遮光率を自律的に変化させることができる。天候や季節に応じた自律的な光強度管理によって、作物の生育と品質の向上が見込まれる。 独立電源型のブラインドシステム制御回路に,屋外の日射強度に比例して変化する日射センサーの電圧出力を入力した。屋外の日射強度が閾値を超えると、モーターがブラインドを温室屋根面と平行位置まで回転させて、30%程度遮光しつつ発電した。日射強度が低下し、閾値を下回ると、モーターが反転して、屋根面と垂直の角度でブラインドを停止させて日射の取り込み量を増やした。この動作が日射強度に応じて自律的に繰り返された。雲の状態によっては、1日に1回から数十回のブラインド動作が毎日繰り返されたが、システムが停止することもなく、エネルギー的にも機構的にも安定してメンテナンスフリーで動作し続けた。温室での実証試験では、ほぼ一年間に渡り、自律運転し、尚且つ余剰の電気エネルギーが発生することを確認した。この太陽電池ブラインドを温室屋根に敷き詰めたと仮定し、回転閾値を500、700、900 W m-2とすれば、温室内に届く日射エネルギーは、それぞれ屋外の59、65、73%となることが見積もられた。 得られた成果を学術誌で発表した。その後も自律運転を継続させて、データを蓄積している。さらに、本研究の背景を整理した結果を総説として投稿した。 以上の研究実績は、ほぼ申請書作成時点の計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
太陽電池ブラインドシステムを連続運転させ、エネルギー収支が正で推移することと機構の信頼性を確認する。エネルギー収支および温室内外日射のデータを解析する。これにより、日射閾値を数段階に設定したときのエネルギー収支と温室内の光環境を定量化する。 並行して、ブラインドによって動的に制御された光環境下で、キュウリなどの作物の実生を栽培して、日射制御の効果を検証する。実生を用いる理由は、子葉の展開角度や胚軸伸長などの光応答が、ブラインドの光強度調節機能の有無によって強く影響を受けることが想定できること、一週間程度のサイクルで繰り返し実験が可能であること、ならびに同一条件で多数の個体をサンプルとして統計評価を可能とすること、による。実規模温室内で作物の応答を研究するためには、ブラインドを構成する太陽電池の数がまだ少ない。その理由は、この特殊な太陽電池が高価であり、容易には大面積の屋根面をカバーする程の枚数に増やすことができないためである。そこでまず、室内の培養器内で人工光源を用いて、1枚の太陽電池の遮光が作物に及ぼす影響を研究する。このことを2年目の研究の中心とする。より具体的には、培養器内に超高輝度LEDを配備して、真夏の正午付近の屋外における光合成有効光量子束密度に相当する2000 micro-mol m-2 s-1を超える光を放射させる。この光環境で育てた実生の光応答と、太陽電池ブラインドを光源と植物の間に設置して強光を緩和した光環境下で育てた実生の光応答を光形態形成と生長速度の観点から比較する。 一定のデータがまとまり次第、論文を執筆して投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね予定通り進行している。研究成果の国外学会発表を計画していたが、システムの設計製作と実証実験ならびに論文執筆に集中するため学会発表を見送った。また、ワークステーションを導入して大規模に温室内日射計算を実施することを考えていたが、ブラインドシステムのハードウエア構築と実験データ収集に集中して研究を進めたため、部材や電子回路部品などの消耗品の購入および論文作成費が中心となり、次年度使用額が生じた。新年度も植物応答評価実験のため引き続き実験資材の購入が必要なことに加え、論文発表を予定しているため、研究を予定通り遂行するためには適切な予算となっている。 今後購入予定の主な物品としては、実生の光応答実験を実施するために必要な装置、部品・材料や電子回路素子等の消耗品を計画している。研究成果発表および情報収集のための学会発表出張旅費及び学会参加費、論文投稿のための英文校閲に要する費用および論文出版の費用も想定している。
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