研究課題/領域番号 |
18K05903
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
谷野 章 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (70292670)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 再生可能エネルギー / 温室 / 太陽光発電 |
研究実績の概要 |
前年度までのブラインドシステムの動作検証で得られたデータを取りまとめ、論文として学術誌でオープンアクセスで公表した。その成果の要点は、エネルギー自給および制御自律的に動作するブラインドによって太陽光を栽培と発電に適切に配分するプロトタイプシステムが実現したことにある。このことが、研究計画段階における重要な目標であった。 さらに、太陽電池ブラインドによって動的に制御された光環境下で、キュウリ実生の育苗実験を実施して、日射制御の効果を検証した。実生を用いた理由は、子葉の展開角度や胚軸伸長などの光応答が、ブラインドの光強度調節機能の有無によって強く影響を受けることが想定できたこと、一週間程度のサイクルで繰り返し実験が可能であること、ならびに同一条件で多数の個体をサンプルとした統計評価が可能となること、による。実規模温室内で作物の応答を研究するためには、ブラインドを構成する太陽電池の数が少ないので、室内の培養器内で人工光源を用いて、太陽電池の遮光が実生に及ぼす影響を研究した。前年度は、予想に反して、過強光下におけるキュウリ実生の発育が量、質共に強光を緩和した光環境下で育てた実生よりも優れていた。この理由は、使用した超高輝度LED光源の放射が赤外域を全く含まないことにあるという事実に気づいた。すなわち、光合成有効波長域の放射は真夏の正午レベルまで高めたのだが、赤外域を含まなかったために、屋外で受けるような熱ストレスを実生が受けていなかったのである。したがって、今年度は、赤外域を含むハロゲンランプ光源を用いて再実験を実施した。真夏の正午頃の屋外における光合成有効光量子束密度に近づけつつ、赤外線も照射した。この強い放射環境で育てた実生の発育と、太陽電池ブラインドを光源と植物の間に設置して強放射を緩和した環境下で育てた実生の発育を光形態形成と生長速度の観点から比較した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラインドによって動的に制御した光環境下で、キュウリ実生の育苗実験を実施して、遮光効果を検証できた。ブラインドを構成する太陽電池の数が少なかったため、室内の培養器内で人工光源を用いて、半透過太陽電池による遮光がキュウリ実生の発育に及ぼす影響を研究した。より具体的には、培養器内にハロゲンランプを配備して、真夏の正午頃の屋外における光合成有効光量子束密度に近づけつつ、赤外線も照射した。この強い放射環境で育てた実生の発育と、太陽電池ブラインドを光源と植物の間に設置して強放射を緩和した環境下で育てた実生の発育を光形態形成と生長速度の観点から比較した。その結果、ハロゲンランプの放射を直接照射した実生は予想を上回る熱的ダメージを受け、また培地の乾燥も想定以上に進むという実験技術的な課題に直面した。COVID-19の感染防止対策のためテレワークとなり、実験を中断した期間があった。このため、コンプライアンスに支障が生じるような無理な実験運営で研究を急ぐよりも、1年研究期間を延期するのが今日的な研究倫理に照らして適当と判断した。 栽培実験は遅れたが、その間装置開発で収集したデータの解析を強力に推し進め、今年度も成果を学術雑誌を通じて公表することができた。その成果の要点は、エネルギー自給および制御自律的に動作するブラインドによって太陽光を栽培と発電に適切に配分するプロトタイプシステムが実現したことにある。このことが、研究計画段階における重要な目標であった。このため、研究全体の進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに構築した植物の生育評価実験システムで実験を継続し、データを積み重ねる。培養室にはMIR-554型、計測制御用コンピュータにはZ210型、プログラマブル直流電源にはPMX70-1A型、アナログデータ収集装置には34970A型、光源にはCXA3070型およびG-1641NH型を使用する。シースルー太陽電池モジュールの移動はアクチュエータによって行う。このシステムを用いて、キュウリ実生育苗実験を実施する。実生苗を用いる理由は、子葉の展開角度や胚軸伸長などの光応答が、シースルー太陽電池モジュールの光調節機能の有無によって強く影響を受けることが想定できること、一週間程度のサイクルで繰り返し実験が可能であること、ならびに同一条件で多数の個体をサンプルとして統計評価を可能とすること、による。 本ブラインドシステムを配備した温室内で想定される日射の推定値として、0.8 kW m-2に遮光の閾値を設定した場合、日出から日射閾値に達する時刻t1までは遮光しないため、通常の温室と同じように日射が温室内に入る。t1から午後に再び日射閾値に戻るt2まで太陽電池モジュールによる一定の遮光率を維持する。この間に遮った日射を発電に利用する。温室作物の光飽和点は光合成有効光量子束密度(PPFD)で1000-1500 μmol m-2 s-1程度である。これに対して、真夏の快晴日のPPFDは2000 μmol m-2 s-1を超える。0.8 kW m-2は1440 μmol m-2 s-1のPPFDに相当する。このため、強日射でダメージを受ける、あるいは強光を避ける生理応答をするような作目では、動的な遮光制御により収量や品質の向上が期待できる。このような光環境を上述の培養室内に再現して植物の応答を評価する。実験で得られたデータを取り纏め論文投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間を通した全体的な研究プランとしては概ね予定通り進行している。過年度はキュウリ実生の光応答実験を集中的に実施する予定であったが、COVID-19の感染予防の観点からテレワークが導入されることとなり、研究計画全体のうち、最後の実験の部分がやや遅れた。このため、コンプライアンスに支障が生じるような実験運営で研究を急ぐよりも、1年研究期間を延期するのが今日的な研究倫理に照らして適当と判断した。以上の理由により当初計画していた消耗品費等を過年度に使い切るようなことはせず、延期計画に沿って適切に実験の遂行に使用することとした。 繰越額は新年度の1年間に実験を積み重ねるために必要な栽培資材、電気回路部品などの消耗品の購入を中心に使用する計画としている。
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