前年度までに,乳牛用の発酵混合飼料では可溶性糖類が減少し,可溶性窒素画分が増加していることを実用規模で確認してきた。またin vitroルーメン内の培養系において,発酵混合飼料ではルーメン微生物によるアンモニアの取り込み量が減少し、タンパク質合成量が低下する可能性を示唆する結果を得てきた。そこで本年度はin vivoでの検証を行うため,泌乳牛を対象に,混合飼料の発酵貯蔵がルーメン内微生物体タンパク質合成量に及ぼす影響を調査した。泌乳牛6頭に対して、発酵させていない通常(非発酵)の混合飼料と発酵混合飼料を給与した。尿中のプリン代謝産物(アラントイン+尿酸)からルーメン内での微生物体タンパク質合成量を推定した。その結果,非発酵の混合飼料および発酵混合飼料を与えた場合、ルーメン内微生物体タンパク質合成量はそれぞれ2325g/日と2107g/日であり(p>0.05)、また、飼料中のタンパク質からルーメン内の微生物体タンパク質への変換効率は71.9%と62.0%であった(p>0.05)。従って,in vivoでの検証結果では,混合飼料の発酵によりルーメン内微生物のタンパク質合成量は低下していないと考えられた。このことから,発酵混合飼料では可溶性窒素画分が増加するが、それらをルーメン微生物が取り込みタンパク質を合成するために必要なエネルギー源が十分に存在していると推察された。エネルギーの供給源として可溶性糖類は発酵混合飼料にほぼ残存していないため,残存量が多いデンプンから得ていると判断された。また混合飼料の水抽出液を対象にメタボローム解析を行った結果、発酵後には乳酸,エタノール,酢酸,マンニトール,グリシン,コハク酸が増加していた。このことから,エネルギー供給源となる低分子化合物としては微量ではあるがマンニトールも候補として挙げられた。
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