研究課題/領域番号 |
18K05946
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
磯部 直樹 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (80284230)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乳房炎 / 抗菌因子 / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
乳房炎による被害は深刻であるが,治療法が確立していないため治癒率は低い.乳房炎予防法であるショート乾乳では、3日間搾乳を停止する。その結果,乳中抗菌因子濃度は増加したが,乳量低下という欠点も見られた.そこで,乳房内での抗菌因子の濃度を最大限にし,乳量の低下を招かず,細菌を一網打尽にする革新的な手法を開発することを目的とした. 以前の我々の試験では、両側の分房を3日間搾乳中止した時の乳量と抗菌因子の変化を調べた。しかし、実際のショート乾乳では、感染分房のみの搾乳を一時中止するので、本年度は、片側分房のみショート乾乳した。 その結果、ショート乾乳を施した乾乳分房の乳量は、搾乳再開後2日目で著しく減少し、その後ショート乾乳前の値まで回復したが、ショート乾乳を施さない対照分房の乳量には有意な変化は見られなかった。乾乳分房の体細胞数(SCC), 乳中Na+, IgA, Cathelicidin-2,およびlactoferrin(LF)濃度は、いずれも搾乳再開後に一時的に上昇し、その後ショート乾乳前の値に戻ったが、対照分房においては有意な変化は見られなかった。また、血漿中のプロラクチン濃度を調べた結果、ショート乾乳前では約50ng/mlであり、ショート乾乳中は有意ではなかったが、濃度は徐々に減少した。そして、ショート乾乳修了後搾乳を再開すると再び増加した。 以上の結果より、片側分房の搾乳を3日間休止すると、その分房の乳量は減少し、乳中抗菌因子濃度は上昇するが、搾乳を休止しない他の分房の乳量および乳中抗菌因子濃度には影響を及ぼさないと推察された。また、ショート搾乳によって乳房に与える搾乳刺激がなくなると、プロラクチン濃度が減少することが明らかとなり、これがショート乾乳時の乳量低下につながっていると示唆された。これらの成果により、ショート乾乳のメカニズムの一端が明らかとなり、より効果的に乳房炎治療が実施されることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、一時的に搾乳を停止した時の乳量変化が、プロラクチン等のホルモンの影響を受けている可能性を検討する計画であった。実際に、搾乳を停止した前後の血漿中プロラクチンの濃度を測定したところ、搾乳を停止すると、プロラクチンが減少していることを示し、プロラクチンが乳量に影響を及ぼしていることを示唆した。 また、計画にはなかったものの、一時的に搾乳を停止する際に知っておくべき極めて重要な情報と考えられたため、一分房のみの搾乳停止が、他分房の乳量および抗菌因子に及ぼす影響についての試験を実施した。この試験は順調に遂行でき、本年度ですべて終了した。結果として、一分房だけ搾乳停止してもそれ以外の乳房の乳生産には影響を及ぼさないことを示すことができた。 また、来年度実施を予定していた、炎症時に搾乳を一時的に停止した時の乳量および抗菌因子濃度の変化については、予定を前倒ししてすでに試験を開始しており、順調に進捗している状況である。様々な細菌成分による炎症について試験を実施しており、本治療法がどの細菌感染の時に用いればよいのか判断する材料が得られることと期待される。 これらのことからおおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、乳房炎牛を用いた搾乳の一時停止の治療検証試験を実施する予定である。 乳房炎になった乳牛に搾乳停止を実施し,乳汁および血液をサンプリングするとともに,症状の転帰を観察する.難治性の慢性乳房炎になった20分房を用い、3日間の搾乳停止をした後に、搾乳頻度上げて1日に4回搾乳し、乳量が回復するかどうかを検討する.処理開始前および開始後毎日,乳汁を採取し,乳量,体細胞数,乳中サイトカイン,乳中抗菌因子について分析を行う。 本試験の例数が集まらない時のために、ヤギを用いた試験も同時進行させる。E. coli, Staphylococcus aureus, Staphylococcus uberis のそれぞれ死菌を乳房内に注入して乳房炎を起こした家畜を用いて、一時的搾乳停止の効果を調べる。それぞれの菌種の死菌を3日連続乳房に注入する。次の日から3日間搾乳を停止する。処理開始前および開始後毎日,乳汁を採取し,乳量,体細胞数,乳中サイトカイン,乳中抗菌因子について分析を行い、一時的搾乳停止が炎症からの復帰に効果的かどうかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
搾乳の頻度を一時的に変化させた時の血中プロラクチン濃度は測定したが、プロラクチンおよびオキシトシン製剤、あるいはそれらの拮抗剤をヤギに投与するin vivo試験を実施してていないことが、使用額が次年度に繰越した理由である。来年度は、個体を用いた試験の代わりに、in vitroで、乳腺上皮細胞を培養する時の培地にこれらの製剤を添加して培養し、抗菌因子の発現や培地中の濃度を測定する予定である。
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