ダイズに含まれるリン酸の70~90%は有機態リン酸化合物のフィチン態リン酸(フィチン酸,Phytic acid)である。しかし,フィチン酸は,人間,鶏,豚などの単胃動物では吸収・利用できない。そのため,豚,鶏に給与される濃厚飼料中のリン酸の多くが糞として環境中に排泄されている。動物の成長にとってリン酸は重要な養分であることから,濃厚飼料には,不足したリン酸を補うためにリン鉱石から精製した無機態リン酸が添加されている。しかし,無機態リン酸の原料であるリン鉱石は将来枯渇が危惧されている。一方,フィチン酸のリン酸基にカルシウム(Ca),鉄(Fe),亜鉛(Zn)などの陽イオンがキレート結合した物質がフィチン(Phytin)である。このフィチンは,単胃動物のミネラル利用性を減少させる抗栄養成分の一つとして知られている。研究代表者は,こうしたフィチン酸に関わる問題を解決することを目的に,フィチン態リン酸が低く無機態リン酸含量の高い「低フィチン系統」の育成を行っており,多くの系統を保有している。代表者は,昨年度までに圃場や土耕ポットなどでこの低フィチン系統を栽培し,その中から西日本で栽培されている普通品種と同程度の収量性を持った数系統選抜した。さらに,昨年度までに低フィチン系統と普通品種のダイズで調製した濃厚飼料を給与した鶏の飼養実験を行い,低フィチン鶏糞と普通鶏糞を得ることができた。令和3年度は,小松菜,ホウレンソウ,ダイズなどへの両鶏糞の施肥実験を行った。その結果,低フィチン鶏糞区は,普通鶏糞区と比較し生育量に差はなく安定した生産が得られることが明らかとなった。さらに,ダイズの根粒重や窒素固定能は低フィチン鶏糞区でやや高かったことなどから,低フィチン鶏糞は,作物に養分を安定的に供給できる資材になりうることが示唆された。
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