研究課題/領域番号 |
18K05950
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
西脇 亜也 宮崎大学, 農学部, 教授 (60228244)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放牧地 / 生態系 / 外来種 / 攪乱 / 野外操作実験 / 競争 / 種多様性 / 在来種 |
研究実績の概要 |
宮崎県都井岬の放牧草地には外来牧草に侵略される草地と、侵略されない草地が存在する。このような違いが生じる理由を知ることは、「外来牧草が侵略的外来種になる条件は何か?」を知って外来牧草を適切に管理する上で重要である。そこで、過去に様々な模擬放牧処理を加えたポット栽培による競争実験を実施したが、予想に反し、外来牧草は在来植物との競争に常に負ける結果となった。競争に弱い外来牧草が放牧草地を侵略できるのはなぜか? この謎を解くために2019年度は、2000年から継続している月例調査を継続するとともに、野外操作実験を行った。外来牧草の侵略が進行していない草地(扇山)では、放牧馬の密度が低く、馬による裸地形成頻度が少ない。そこで、固定植生調査枠(縦横それぞれ50cm)を2018年秋に20個設置し、これらを無処理区5個、馬糞裸地区5個、模擬蹄傷裸地区5個、馬糞+模擬蹄傷裸地区5個に区分して1年間植生調査を行った結果、外来牧草の量は地点間変動が大きく、糞や蹄傷による裸地形成が外来牧草の侵略を促進することを示す明確な結果は得られなかった。 一方、外来牧草の侵略が進行している草地(小松ヶ丘)では、放牧地での家畜による地表攪乱の影響を制御する実験区を、2018年度に金網が無い枠組みだけのプロテクトケージ(草は被食されるが、馬糞や蹄傷による裸地形成は制限される)と、金網でガードされたプロテクトケージ(被食も裸地形成も制限)をそれぞれ5個設置してケージ内外について1年間の植生調査を行った結果、無処理区では外来牧草の優占が持続したが、被食と裸地形成をともに制限したケージではチガヤなどの在来植物が優占して外来牧草はほとんど消失し、被食だけを許容したケージでも在来植物の優占度が増加して外来牧草が減少した。 この結果は、放牧地における馬糞や蹄傷による裸地形成が外来牧草の侵略を促進することを示すと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書には、都井岬の外来牧草の侵略が進行せず在来植物の種多様性が高い草地と、外来牧草の侵略が進行し在来植物の種多様性が低い草地を野外実験対象とすると書かれているが、まさに、この計画通りに進行している。 2019年度は、2000年から継続している月例調査を継続するとともに、2018年度から新たに設置した、放牧地での家畜による地表攪乱の影響を制御する野外操作実験区における植生調査を実施した。外来牧草の侵略が進行していない草地(扇山)では、固定植生調査枠を2018年秋に20個設置し、これらを無処理区5個、馬糞裸地区5個、模擬蹄傷裸地区5個、馬糞+模擬蹄傷裸地区5個に区分して植生調査を行った結果、外来牧草の量は地点間変動が大きく、糞や蹄傷による裸地形成が外来牧草の侵略を促進することを示す明確な結果は得られなかったが、大きな馬糞裸地における外来牧草の増加が観察された。 一方、外来牧草の侵略が進行している草地(小松ヶ丘)では、被食と裸地形成を制限したケージで1年間の植生調査を行った結果、無処理区では外来牧草の優占が持続したが、被食と裸地形成をともに制限したケージではチガヤなどの在来植物が優占して外来牧草はほとんど消失し、被食だけを許容したケージでも在来植物の優占度が増加して外来牧草が減少した。この結果は、放牧地における馬糞や蹄傷による裸地形成が外来牧草の侵略を促進することを示すと考えられた。 これらの野外実験区の結果が明確に出るまでには少なくとも2年はかかるので2020年度も継続的な調査が必要であるが、野外操作実験区における1年間の植生調査が実施できたので、おおむね順調に進展していると判断した。 また、2019年度には大量のシバとカーペットグラスの苗の養成を行いポット実験を開始した。過去のポット実験と異なり、放牧家畜による撹乱として馬糞と蹄傷を考慮する。この実験も極めて順調である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、2000年から継続している月例調査を継続するとともに、2018年に新設した放牧地での家畜による地表攪乱の影響を制御する野外操作実験区における植生調査を継続する。外来牧草が優占する小松ヶ丘では、採食のみを可能にする実験区と採食と馬糞や蹄傷が可能な実験区、そして金網でガードされた禁牧区(被食も裸地形成も制限)をそれぞれ5個設置して植生調査を定時的に行うことで、外来牧草の消失に対して、2019年までの結果では、被食制限の方が裸地形成の制限の効果の方が大きいとする結果となったが、2020年度はさらなる結果の明確化が期待される。 また、外来牧草の侵略が進行していない草地(扇山)では、馬糞裸地区と模擬蹄傷裸地区、馬糞+模擬蹄傷裸地区を設置して1年間の植生調査を行った結果、外来牧草の量は地点間変動が大きく、糞や蹄傷による裸地形成が外来牧草の侵略を促進することを示す明確な結果は得られなかったが、大きな馬糞裸地における外来牧草の増加が観察された。そこで、2020年度は実験区周辺の近距離空中写真によって作成された精密な3D植生図の経時変化を活用することによって、馬糞が大量に落下した地点において、本当に外来牧草の被度が増加するのかを明らかにすることを試みる。 以前に行ったポット栽培による競争実験では、放牧地での馬糞や蹄傷による裸地形成を想定しなかったために、外来牧草は在来植物との競争に常に負けたと考えられる。そこで、ポット栽培による置換型競争実験に馬糞と蹄傷による裸地形成の因子を追加する新たな工夫を考えた。通常の単植区と混植区に加えて、馬糞散布処理の処理区を新たに追加し、①単植区、②混植区、③単植+馬糞裸地区、④単植+蹄傷裸地区、⑤混植+馬糞裸地区、⑥混植+蹄傷裸地区の処理区構成とする(5反復)。全ての処理区に対して毎月刈り取る模擬放牧処理を行い、草種毎に被度と乾物重を測定する。
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