研究課題/領域番号 |
18K05955
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
江草 愛 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 講師 (90521972)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カルノシン / ノックアウトマウス / 骨格筋 / 細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、骨格筋に高濃度で存在するカルノシンの生理的役割について、エネルギー代謝の面から明らかにすることを目的としている。カルノシンはβアラニンとヒスチジンからなるジペプチドである。抗糖化作用や運動機能向上効果が示唆されているが、生理作用については未だ十分に解明されていない。我々はカルノシン合成酵素遺伝子の欠損マウス(KOマウス)を作製し、その機能を調べる中で「カルノシンはβアラニンプールとして存在する」のではないかとの仮説にいたった。そこで、KOマウスや骨格筋細胞を用いて、以下の研究を行った。 (1)細胞を用いた評価系 はじめに、マウス由来骨格筋細胞(C2C12)とラット由来骨格筋細胞(L6)を用いて、カルノシン合成酵素遺伝子を導入した両細胞のカルノシン合成能を比較した。その結果、C2C12の方がカルノシンの合成能が5倍高く、細胞中のβアラニン量がL6の10倍存在することが明らかとなった。C2C12でL6よりβアラニン量が多い理由はβアラニンのトランスポーターであるTauTの遺伝子発現量が多いことと相関していた。そこで、C2C12を用いて、筋管に分化させ、カルノシン合成酵素の発現量を調べたところ、遺伝子およびタンパク質の両方で、分化前の3倍以上の増加が認められた。今回は分化や運動に伴うATP量の比較を行うための基礎的なデータが蓄積出来た。 (2)動物を用いた評価系 流水中で強制遊泳をさせた後、直ちに骨格筋を採取し、pHを測定した。しかし、開腹から骨格筋の採集までに時間が掛るためか、pHの低下は認められず、カルノシンの有無による代謝系の違いについては実験系の見直しが必要であると考えられた。一方、骨格筋の疲労に関わる分岐鎖アミノ酸量がKOマウスで少ないことが明らかとなった。KOマウスの運動パフォーマンスの低下はエネルギー代謝以外の要因も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の実験では、細胞と動物を用いて、カルノシンの骨格筋における役割を明らかにすることを目的とした。 細胞を用いた評価では、来年度の実施に繋がる基礎的知見が得られ、順調に計画が遂行されている。 一方、動物実験は、骨格筋の評価方法について再検討が必要となったが、本来目的としていたカルノシンの運動パフォーマンス向上作用は、エネルギー代謝以外の可能性も示唆される結果が得られた。これら全体を鑑みて、概ね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる令和2年では、これまで積み上げて来た基礎データや評価系を活用し、カルノシンがエネルギー代謝に関わるのか否かを明らかにしていく。 細胞を用いた評価系では、すでに電気刺激による運動を実施しており、運動時の代謝産物や細胞の状態を、カルノシンの有無で評価する。 また、KOマウスは引き続き、強制運動時における代謝産物量を測定することで、カルノシンの生理的役割を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用額に差が生じた理由は、消耗品を一部既存のものが使用できたのに加え、抗体類や遺伝子用試薬など比較的高価な物品をキャンペーンなどを利用して安価に購入できたため、予定より支出が抑えられた。 データを発表するための論文校閲費用などが未だ執行出来ていないため、最終年度となる次年度では、消耗品費と合わせて、得られた成果を広く社会に還元するために使用する。
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