本研究では、骨格筋と大脳・嗅球に特異的に存在するカルノシンの生理的役割について、エネルギー代謝の面から明らかにすることを目的とした。カルノシンはβアラニンとヒスチジンからなるジペプチドであり、ヒトの骨格筋中では20mMの高濃度で存在する。抗糖化作用や運動機能向上への関与が示唆されているが、生理作用については未だ十分に解明されていない。我々は、カルノシン合成酵素遺伝子を骨格筋細胞に導入し、カルノシン高産生細胞で生理作用を評価する系を確立した。さらに、この酵素の活性中心を欠損させたノックアウト(KO)マウスを作製した。これら2つの系を用いて、カルノシンがエネルギー代謝に及ぼす影響を調べた。 はじめに、細胞を用いてエネルギー代謝に大きく関わる運動(電気刺激による強制運動;EMS)を負荷させた場合のカルノシンとエネルギー産生に関わる代謝物の影響を調べた。その結果、当初の予想と反して、3時間のEMSによりカルノシンとβアラニンで各々6割と4割の有意な減少が認められた。また、βアラニンの代謝に関わるアスパラギン酸も有意な減少が認められた。カルノシンが減少した原因にはCarns1の発現量低下が関与していた。エネルギーが必要となる運動時にカルノシンおよびその基質が減少したことは当初の予測と大きく反する結果となった。さらに、KOマウスを用いた実験においても、30週齢、50週齢、90週齢の各段階で野生型マウスの腓腹筋に含まれる代謝産物を、メタボローム解析を用いて検討したが、ATP量については有意な違いが認められなかった。KOマウスを用いた実験については、引き続き運動負荷をさせた筋肉による代謝産物の違いを検討している。
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