研究課題/領域番号 |
18K05959
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
芳賀 聡 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (90442748)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 子牛 / 哺乳 / スターター / 初期発育 / 代謝インプリンティング / 組織発達 |
研究実績の概要 |
【目的】自給粗飼料に立脚した日本型酪農の創成に向け、生涯の体質が形成され得る哺乳・離乳期をターゲットに粗飼料に早期順応させつつ、高い健全性と発育も促進させる新たな哺育育成コンセプトを立案した。この有効性と応用可能性を探るべく本研究では、「発酵牧草飼料」をスターター素材とする哺育育成飼養が、国内のスタンダードである濃厚飼料スターター給与飼養と比較して、子牛の発育、体質形成そして健全性にどのような影響を与えるかについて明らかにする。 【主な成果】1.強化哺乳条件下における粗飼料スターター(発酵アルファルファ)の嗜好性および採食可能量を検討した。その結果、新生期から馴致を行うことで自発的採食が十分可能であり、8週齢の離乳までに平均1kg DM/日を採食させることができた。また、嗜好性には個体差が見られた。2.全頭において日本ホルスタイン種標準発育値以上の初期発育レベルを確認した。4日齢から8週齢までの体重、体格変化値について両区間に有意な差はなかった。本結果より、濃厚飼料スターター給与とほぼ同等レベルの高い初期発育を得られることが確認された。3.血中グルコース濃度は両区間で有意な差はなかったが、離乳時期から粗飼料区は減少傾向、濃厚飼料区は増加傾向という異なる動態を示した。血中βヒドロキシ酪酸濃度は7週齢以降のスターター食い込み量の増加に合わせて、粗飼料区の増加が著しく、両区の間に有意な差が確認された。このことから、粗飼料スターター採食は、反芻動物特有の炭水化物代謝機構への移行を早め、グルコース依存型からVFA依存型のエネルギー代謝の獲得に寄与する可能性が示唆された。また、剖検データより、肝臓サイズに両区間で違いが見られた。以上より、濃厚飼料スターター法と比較して、同等の初期発育を得つつ、その体質に全く異なる生理的インパクトを与える飼養法として、更なる新知見が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に計画していた子牛の哺乳期給与試験は順調に遂行でき、採食量や発育度に関するデータ取りも完了した。得られた血液、胃液、組織等のサンプルを用いて2019年度にかけて行う生化学的、分子生物学的、内分泌学的、微生物学的分析および解析は順次進めており、概ね計画通りである。以上より、本研究は当初の研究計画に沿って、おおむね順調に進展中であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は以下の通りである。 1.粗飼料順応が「栄養代謝機能」の発達に及ぼす影響を明らかにする 反芻・消化に重要な唾液分泌、ルーメン発酵、ルーメン発酵産物であるVFAの吸収と代謝機能、そして「栄養代謝の中枢」である肝臓の糖、脂質、窒素代謝機能に着目し、各組織の機能遺伝子発現パターンの精査により、粗飼料順応効果に関連する分子栄養学的な知見を得る。具体的には、耳下腺の炭酸脱水素酵素遺伝子、ルーメン絨毛の脂肪酸トランスポーターやレセプターの遺伝子、肝臓の糖、脂質、窒素代謝の関連遺伝子を、Q-RT-PCR法により発現量解析する。また、ルーメン液中VFA濃度もHPLC法により調べ、ルーメン発酵に及ぼす影響を調べる。 2.発育や栄養代謝の制御に重要な「内分泌調節機構」に及ぼす影響を明らかにする 子牛の発育や栄養代謝に重要なホルモンであるIGF-1やインスリンの血中濃度をELISA法を用いて分析し、期間推移から両区の違いを調べる。さらに、採材した肝臓組織中のIGF-1および各ホルモンレセプターの遺伝子発現量、筋肉組織中の各ホルモンレセプターの遺伝子発現量をQ-RT-PCR法により分析し、両区の違いを調べる。以上より、発育や栄養代謝の制御に重要な内分泌調節機構に及ぼす発酵アルファルファ給与の影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
哺乳期子牛試験の実施遂行において必要な飼料費や道具類の購入、分析試薬の購入においては、入札制度による業者間の価格競争等を踏まえてコスト削減が可能であった。また、血液成分や飼料成分の分析について、費用対効果を得るため一部外注したことで研究の効率性を高めることに成功した。当初より、分析および解析の一部は2018-2019年度に跨って実施する予定であり、当該助成金と次年度助成金と合わせた予算については、予定通りの分析および解析の試薬や理化学機器の購入に使用し、予定通りの研究を推進する。
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