研究実績の概要 |
本研究では、栄養条件を通常の120%または60%に設定した飼養条件における妊娠中黒毛和種母牛の胎仔の骨格筋形成遅滞メカニズム解明を目的とした。昨年度までに、飼養条件(各♂4頭)間で重量に差が生じた胎仔骨格筋(最長筋)で複数のmicroRNAに発現差が認められた。その発現調節の対象となる標的遺伝子についてmRNA発現を調べると、低栄養条件下の胎仔で発現が増加したmiRNAの標的遺伝子の多くが発現増加し、低栄養条件下の胎仔における遺伝子のmRNA発現がmiRNAによる制御下にないと考えられた。遺伝子発現マイクロアレイ解析データを用い、今回の低栄養条件による影響を大きく受けるかについて、遺伝子オントロジー解析およびKEGGパスウェイ解析を行うと、低栄養条件下の胎仔最長筋では、免疫系のほか、解糖系を含むエネルギー代謝、血管新生等に関連する遺伝子の発現が低下する傾向にあることがわかった。得られた遺伝子発現プロファイルをもとに、発現変動の大きい遺伝子を中心としたPCRによる発現のヴァリデーションを行った結果、PDK4,NOS2,APLNR,UCP2,ANGPTL4等、エネルギー代謝に関連する遺伝子の発現が低栄養条件下で有意に低下することが明らかになった。また、CE-MSメタボローム解析による網羅的代謝成分解析の結果、低栄養胎仔の最長筋ではカルノシン、グルタミン、クレアチン、フェニルアラニン、プロリン等が多いことが判明し、おもにアルギニン等のアミノ酸代謝の変化が示唆された。以上のことから、エネルギー代謝の低下から、骨格筋内タンパク質合成が低下したために、アミノ酸が蓄積したと考えられた。このことが、低栄養条件下の胎仔における筋形成の遅滞、筋重量の低下と関連していることが示唆された。
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