発育不良により、廃用となったホルスタイン牛を収集し、病理学的に解析した。 解析対象となった牛の中には、既知のAPOB遺伝子変異(c.398_399insNSTd119:g.1_1299)ホモ牛、ヘテロ牛、野生型の牛が検知された。それらのうち、ホモ牛の病理組織学的特徴を明らかにした。ヘテロ牛には特徴的な変化は見いだされなかった。野生型の牛の中にホモ牛と同様の組織変化を呈するものを見出した。 ホモ型の病理組織学的特徴として同定した変化の中には、食道に頻発する変化、特定の領域の消化管に頻出する変化、肝臓の変化など、従来報告されていない変化を多数捉えることができた。それら組織学的変化の詳細は、牛において脂質輸送に関与する遺伝子異常が疑われた際に、比較検討すべき変化として重要な情報となる。実際、既知の変異の観点からは野生型と診断された牛において、極めて類似した組織形態を示す症例を同定できており、本情報の有用性が確認された。 組織学的鑑別から、ホモ牛と同様の遺伝子異常の関与が疑われた症例において、アポリポ蛋白を二次元電気泳動によって分析した。その結果、ホモ型に類似する所見を得た。よって既知の変異とは異なる遺伝子異常が、既知のAPOB遺伝子異常と同様の疾病を起こしている可能性が明らかとなった。当該牛のAPOB遺伝子の全エクソン領域をPCR-ダイレクトシーケンスによって精査したところ、2例の牛に共通して、アミノ酸置換を伴う変異が検出された。当該変異が既知のHCDと同様の障害を起こしている可能性が示唆されたが、本変異が発育不良の原因となるかについては、検査対象範囲を拡大し、検討する必要がある。 それ以外の牛においては、過去の腸炎やコクシジウム感染を示唆する所見が得られており、複数の要因が成長不良に関与していることが改めて確認された。
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